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 2006年11月24日 息子の結婚、こぼれ話

 息子の結婚式の前日だった。2次会で幹事を務めるという息子の友人から、突然電話をもらった。

 「お願いがあるんですが」

 息子が結婚するのである。2次会で幹事を務めてくれるともからの頼みである。私にできることなら引き受けざるを得ない。

 「2人に手紙を書いて頂きたいんですが」

 「手紙?」


 訝る私に、彼は言葉を継いだ。

 「2次会で読み上げるんです。あいつを泣かせたいので、是非、感動ものの手紙を書いてください」

 困った。私は1次会、というか、披露宴で挨拶をする。すでにその原稿は書き上げてあった。先日アップしたやつである。その上に、また手紙? かけるか?

 「披露宴でも挨拶をするから、別の文章が書けるかどうか、実は自信がない。考えさせてくれ。披露宴と2次会の出席者はあまりダブらないと聞いているから、場合によっては披露宴用の原稿に少し手を入れるだけにするかもしれないが、それでもいいかな?」

 その日は、我が家で宴会だった。原稿を考える暇などない。
 翌朝、パソコンの前に座って1時間ほど考え、40分ほどで書き上げた。

 披露宴が始まる前、

 「これでいいかな?」

 と幹事氏に手渡した。

 「お父さん、ありがとうございます」

 といって、彼は消えた。私は彼の父ではないが、この際だから小さなことには目をつぶった。


 翌日。結婚式を終えた息子とその嫁が我が家にやってきた。こいつ、泣いたのか? 反響が気になって聞いてみた。

 「お前、2次会で泣いたか?」

 「えっ、何で?」

 「だって、俺の書いた手紙を会場で聞いたんだろ?」

 「知らねえよ。2次会は大混乱で、そんな余興は全くなかったぜ」


 どうやら、私の労働は全く意味がなかったらしい。悔しいから、息子が聞くことがなかった2次会用の原稿も、ここにアップすることにした。


 S、A子君、今日はおめでとう。
 2人を祝うために集まっていただいた皆さん、どうもありがとうございます。

 もうずいぶん昔の話です。私が新入社員で新人研修を受けたときのことです。講師は確か、会社の大先輩でした。彼がこんな話をしました。

 「君たち、必ず結婚したまえ。結婚していない人間は半人前だ」

 きょとんとする我々に、彼は言葉を重ねました。

 「人間というものは、結婚して、子供ができて、初めて世の中がわかる。結婚をしていない、子供を持っていない人間は、結婚し、子供を育てる人たちの喜びや悲しみや苦しみが、絶対に理解でいない。自分でもその喜び、悲しみ、苦しみを味わって初めて人の喜び、悲しみ、苦しみが分かり、それでやっといい仕事ができる」

 そのとき私はすでに結婚しており、さらに長男のSがいました。同期入社の連中はほとんどが独身です。私は、

 「そうか、新入社員の中でまともな仕事ができるのは俺だけか」

 と、何とも珍妙な感想を持ったものです。ひょっとしたら、そのときはSという子供がいる家庭の喜びしか感じていなかったからかも知れません。

 その子が結婚して巣立ついま、改めてあのときの軽薄さを、恥じらいとともに思い出します。

 S、君は2歳の頃、ゲームに使われていたパチンコ玉を飲み込みました。あわてて救急医療機関に駆け込みました。が、医者は何もしてくれません。

 「せめてレントゲンぐらい撮ったらどうなんだ? あんた医者じゃないのか?」

 思わず言葉を荒げる私に、医者は冷静に言いました。

 「レントゲン撮ってどうします? パチンコ玉が見えたら開腹手術をして取り出すのですか?」

 飲み込んだパチンコ玉は、いつかうんちに混じって出てくるものなのです。しかし、冷静な判断ができないのが親です。

 S、君は寝小便が止まりませんでした。お母さんは毎日のように、日本地図が描かれた布団を干しました。このまま止まらなかったら、この子の人生はどうなるのか? 坂本龍馬が15、6まで寝小便をしていたという事実を知っても、それは他人のこと、自分の子供は普通であってほしいのも親です。

 S、君は小学校に入った頃、原因不明の微熱が続きました。入院させて検査をしても原因がわかりません。親の想像力は悪い方に、悪い方にと向かいます。いつまでも微熱が続いたら? とんでもない病気だったら? ひょっとしたら、我々夫婦から、何か悪い遺伝でも受け継いだのか? だとしたら……。

 高校受験で心配し、大学受験で心配しました。大学から下校途中、バイクで事故を起こしたとの連絡を受けたときは、仕事を放り出し、車で病院に駆けつけました。君を失ったのか? 私の人生から君が消えたのか? それだけに、病室から生きて出てきた君を見たときは一気に緊張が解け、言葉が出ませんでした。やっと、

 「これでバイクとはおさらばだな」

 と語りかけたことを覚えています。

 S、君はその後も、何度も失業者となり、我々の心臓を痛めつけてくれました。きっと、これからも痛めつけてくれます。
 親とは、まったく損な商売です。

 A子君のこれまでについては何も知りませんが、A子君のご両親も、我々夫婦と似た思いを一杯抱えて今日を迎えられたことは容易に想像できます。

 いや、だから君たちは親に感謝すべきだというのではありません。

 「子供ってさあ、5歳までにすべての喜びを親にくれるんだよ。6歳からは、まあ、だんだん憎らしくなって、親の心配も増えるけど、それはさあ、親は5年間楽しませてもらったつけを払っているだけなんだ」

 先輩から聞いた話です。普段はボーっとしているこの先輩を少し尊敬しました。そう、親とはそういうものなのです。

 再び研修での先輩の言葉に戻ります。君たちは今日結婚し、半人前から少し成長しました。やがて親になり、彼の言葉によれば、いい仕事ができるようになるでしょう。そして、喜びも悲しみも苦しみも味わいます。

 S、A子君、君たちのすべてはこれから始まります。

 最後に、こんな言葉を用意しました。

   Marriage is the lack of judgement, divorce the lack of patience, and remarriage the lack of memory.
 (結婚は判断力の欠如、離婚は忍耐力の欠如、再婚は記憶力の欠如です)

 フランスの劇作家、アルマン・サラクルー の言葉です。

 君たちは今日、判断力の欠如を内外に証明しました。でも、忍耐力と記憶力は人並み優れているよね? いい仕事をしてくれ!

 親の願いを伝えて、挨拶とします。

 

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