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 2007年6月29日 シリーズ夏・その2 老朽クーラー

 とうとう、冷房がないと眠れない時期に入った。私の寝室では、午後11時頃から真新しいエアコンが稼働している。数日前からのことだ。

 昨夏までは、クーラーが働いていた。名古屋で次女が生まれた時に買った物だから、4半世紀を生き抜いた古強者だった。
 次女の誕生日は7月21日。産院を出て自宅に戻るとすぐ、全身に汗疹(あせも)ができた。体中にブツブツができ、見ているこちらが辛くなった。

 「おい、クーラーを買おうか。これじゃあ可哀想だろ」

 妻とそんな会話をして東芝製のクーラーを購入した。我が家で初めてのクーラーだった。設置が終わって電源を入れ、その快適さに陶然とした。
 そうなのである。我が家では、8月生まれの長男の時には、クーラー導入の動きはなかった。10月に生まれた長女が生後半年余り立った夏にも、クーラーは話題にならなかった。次女が産まれるにいたって初めて文明の利器が導入されたのである。

 いま私は、クーラーと添い寝をしなければ夏場を過ごせない。次女が生まれるまでの31年間、どうやって暑苦しい夜を過ごしていたのだろう? 私に関する7不思議の1つである。

 その由緒あるクーラーを今年、最新型のエアコンに替えた。一大決断だった。4半世紀前のクーラーが立派に稼働し、毎夏、私の睡眠を快適なものにしてくれていたからだ。まだ働けるものをお払い箱にするのは何とも忍びないのである。

 とはいえ年代物である。問題はいくつもあった。
 まず、うるさい。最新型のエアコンと違い、室外機はゴーゴーと大きな音をたてた。騒音と呼んでもいい。
 古いクーラーだから、タイマーなどは付いていない。リモコンもない。ONーOFFは、必ず室内機に取り付けられているスイッチでしか行えない。
 何より、電気代が心配だった。最近のエアコンは、必ず「省エネ効果○○%」などと表示してある。古い機種に比べて寄り少ない電力で同じ冷房効果が出ることをアピールするものだ。古い機種といっても、せいぜい5〜6年前のものだろう。とすると、4半世紀前のクーラーに比べれば、ひょっとしたら半分以下の電力で同じ冷房効果を出るはずだ。

 「買い換えよう」

 我が家では何度も話題になった。話題になりながら、なかなか実行に移さなかった。
 私は一度寝付くと、地震があってもなかなか目を覚まさない。従って、室外機の騒音は気にならない。
 タイマーは、外付けのものを買った。このタイマーを介してコンセントにつなぐのである。寝る前に3時間程度にセットしておけば、私が眠っている間に稼働は止まる。
 電気代? そう、これが最大の問題だった。だが、まだ動いているのである。まだ現役なのである。それを見捨てるのは人の道にもとるのではないか?

 早く壊れてくれ。そうすれば、心を痛めることなく最新型のエアコンに取り替えることができる。夏が来るたびに、そう願い続けた。だが、クーラーは老骨に鞭打つようにして働き続けた。健気だった。ベテランには意地がある。我が人生の手本にしたいようなクーラーであった。

 それなのに、あっさりとエアコンに買い換えた。

 してみると、あれか。クーラーをエアコンに買い換えなかったのは、単に目先の金が惜しかったのか?

 「あれ、今日はエアコンが安いみたいだなあ。この際、取り替えるか」

 「そうね、電気代も違うだろうし、夏のボーナス払いで勝ったら?」

 近くのサトー無線に出かけた時、妻とのそれだけの会話で買い換えが決まった。今春のことだった。

 4半世紀もともに過ごしたのに、まだ役に立つのに、人生の師とまで仰いだのに、その場の思いつきであっさりとお払い箱にする。人間とは全くあてにならない。

 
 今日も帰宅したら真新しいエアコンにリモコンで電源を入れ、タイマーをセットする。畳と女房だけでなく、エアコンも新しいと快適である。
 さて、快適に冷えた部屋で、今日はどんな夢を見るのだろう? 何事においてもあてにならない私が私が登場する夢でなければよいが……。

 

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