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 2007年9月17日 まつや

 今回は蕎麦の話だ。
 東京には蕎麦の名店が多いといわれる。「いわれる」と書いたのは、最近、その評価が当てにならなくなっているからだ。

 先週土曜日、久々に妻を伴って神田の「まつや」に行った。近くに「かんだやぶそば」もある。この一帯は、蕎麦好きのメッカである。

 午後は、有楽町マリオンで「朝日名人会」を聞く予定だった。昼過ぎに出て、銀座で軽く食事をしようと思っていたのだが、当日朝になって急に秋葉原に立ち寄ることを思いついた。DVD-RとS-VHSテープの在庫が少なくなっていたためだ。足が弱い妻との外出は、必ず車である。であれば、秋葉原まで足を伸ばすのに何の問題もない。平日に秋葉原まで出かけて重いテープとDVD-Rを運ぶ手間を考えれば、ここは足を伸ばすに限る。

 では、どこで昼飯を食おうか、と考えて思いついたのが「まつや」だった。妻は蕎麦好きである。
 「まつや」近くのパーキングに車を止め、「まつや」に向かった。向かう途中で「神田志乃多寿司」が見えた。妻の足がそちらに向かった。

 「おい、そっちじゃないぜ!」

 「いいの、いいの」


 何がいいのか不可解だが、妻は確信を持った足取りで「神田志乃多寿司」に向かった。だけでなく、店に入り込んで品定めを始めた。

 「昔、運動会なんかで食べたと思うのよ、ここのお寿司」

 妻は子供の頃、秋葉原近くで育った。その思い出で判断力がすべて麻痺したのか、太巻き詰め合わせを2箱買った。1箱は、隣に住む両親への土産らしい。

 支払いを済ませ、「まつや」に向かった。正午過ぎである。
 いつもなら、店の外に10人内外の客が順番待ちしているのが、この時間の「まつや」である。ところがこの日は、店外にいたのは2人だけ。中をのぞくと、席が空くのをまっている客は2人で、合計4人しかいない。これならすぐに座れる。
 2、3分すると、7、8人の客がドヤドヤと出てきた。すぐに座ることができた。注文はせいろ3枚。妻が1枚、私が2枚食べる。

 やがて1枚ずつ運ばれてきた。 そっそくたれをつけ、ズーッズーッと音を立てながらすすり込む。これが通の味わい方だ。

 「ん?」

 違和感が口中に広がった。

 「なんか、ますます駄目になってないかい?」

 小麦粉っぽいのである。かつては完璧な蕎麦であったものが、いつの頃からかうどんの親戚になり、とうとう肉親になってしまったようなものだ。なんとも肉厚な感じがして、蕎麦の繊細さに欠ける。

 ブスッとしたまま食べ終えた。妻も無言で食べ終えた。妻が支払いをする間、私は秋葉原に足を伸ばし、必要なDVD-Rとビデオテープを買い込み、「まつや」蕎麦で待っていた妻と車に乗り込んだ。ブスッとしていた妻が口を開いた。

 「失望した。悲しくなった。わざわざ食べに行くところではなくなった」

 昨日曜日、次女が子供の瑛汰を連れて我が家に来た。妻は娘に向かって、

 「失望した。悲しくなった。わざわざ食べに行くところではなくなった」

 と3度繰り返した。同じことの繰り返しが多くなった最近の妻である。いつもは、

 「老化が進んでおるか」

 と受け流すのだが、このときだけはその気持ちがわかった。私も同じ思いだったからである。

 東京には、いい蕎麦屋が少なくなった。かつて私に、

 「蕎麦ってこんなに美味しかったのか!」

 と目を開かせた「かんだやぶそば」には、昔日の面影はない。その後しばらくお気に入りだった新橋の「本陣房」も、ある時からたれがいけなくなった。煮干し臭いのである。最初は、

 「たれがおかしい」

 と取り替えさせた。新しく出てきたたれも同じ臭いと味だった。数ヶ月たって、同じ店の別の店舗に行ってみた。同じ味と臭いのたれが出てきた。それからこの店には足を運んでいない。大晦日の年越し蕎麦は毎年この店で買っていたのに……。

 連休3日目の今日、口直しに蕎麦を食べに行こうか、とふと思った。目的地は、横浜市中区山元町の「山本」である。駐車場が2台分しかない小さな店だが、いい蕎麦を出す。たれも上等だ。やや値段は高いが……。

 思いながら、パソコンで瑛汰の写真をプリントしているうちに、妻が昼食の用意を始めた。口直しを口にするタイミングを逸した。

 出てきたのはラーメンだった。最高気温が30度を超す日に熱々のラーメン。エアコンで冷やした部屋で食べる熱々のラーメン。暑かった。
 妻もそばで、汗を拭きながらラーメンをすすっていた。

 我が家にはほかに食材がなかったのかなあ……。

 

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