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 2007年10月28日 同期会

 10月14日の「昼酒」で、私は読者にお約束をした。10月2回目の昼酒のレポートである。いまから、そのお約束を果たそうと思う。

 という気は、昨夜からあった。だが、物理的に不可能だった。昨夜はアルコールの海にとっぷりと浸かっていた。パソコンを立ち上げることすら不可能だった。
 昨日から次女が瑛汰を連れて泊まりに来ていた。今朝は7時から瑛汰のお相手である。自分の時間がなかった。いや、これは言い訳である。昨日私が浸かっていたアルコールは、今朝になっても容易に蒸発してはくれなかった。何を書こうかと考えても、書くべき言葉がまとまらない。

 やっと瑛汰が帰った。アルコールの大半が体内から抜けた。さて、お約束を果たさねば、とパソコンの前に座ったが、どう報告していいやら……。

 朝からだった。このところ秋らしい好天が続いていたのに、昨日に限って雨だった。「遣らずの雨」以外の雨は邪魔なだけである。気分が鬱ぐ。

 「えーっ、こんな雨の中、わざわざ酒を飲みに行くのかよ」

 今日集まる奴の中に、普段の行いが良くない人間が紛れ込んでいるのに違いない。私も集まる奴の一員ではある。だが、このような際、集まる奴の中には自分を入れない。それが世間の常識である。私も常識に従った。行いが良くないのは、私を除いた誰か、と頭から信じて疑わない。

 会場は新宿の料亭だ。開始時間は12時半。11時頃家を出た。12時過ぎに会場の近くまでたどり着いた。あまりに早く会場に着いては、この催しを心待ちにしていたと誤解されかねない。それは心外である。コーヒーを飲んで時間を潰した。160円だった。

 12時25分、到着した。私の前で料亭の玄関をくぐる奴がいる。中年男性だ。雨の土曜日の昼下がり。このような料亭の門をくぐる変わり者は、今日の参加者以外に考えられない。そう思って顔を見た。知らん。が、相手は親しげな表情を見せた。やばい。こいつ、俺を知っている!

 そいつと一緒に部屋に入った。すでに10数人が居並んでいた。1万円の会費を払いながら部屋を見渡した。見分けのつく顔は……。たった3人! やっぱり来なきゃ良かったかなあ。一瞬、後悔の念がよぎる。
 念のため、周りに誰もいない席を選んだ。これなら、隣に座る奴を私が選ぶわけではない。隣に誰が座るかは運任せだ。そちらの方が気楽である。

 右隣、左隣には、幸い顔の見分けがつく奴が座った。宴会が始まった。ビールで乾杯する。あちこちで話の花が咲き始める。

 左から黄色い声がかかった。

 「あら、安堂君、来てくれたんだ!

 女性である。どうやら私のことを知っているらしい。が、私にはこの女性がどこの誰であるのか、全く見当がつかない。

 「あのー、申し訳ないんですが、どなたでした? 全く分からないんだけど」

 「まー、イヤーねえ。床屋の藤本よ。ついこの間も安堂君のお母さんに会ったんだから。お元気そうだったわよ」

 ますますやばい。この女性、私の母親まで知っている。その上、いまだに付き合いがある!

 待ちに待った挨拶が始まった。挨拶となれば、名前を名乗って近況報告をするのが筋であろう。そうすれば、ん10年の時を隔てて変わり果てた容姿からも、昔の面影をかぎ分けることができかもしれない。期待した。

 ダメだった。名前を聞いても、私の記憶の中で呼び覚まされるものがない。呆然としていると、右隣に座った津留君が本日の参加者名簿を広げ、

 「おい、いま挨拶しているのはどいつだ?」

 そうか、見分けがつかないのは俺だけじゃあないのか。地獄で仏とはこのようなことをいう。俺だけではないんだ! 開き直って飲もう!

 飲みながら、どういうメンバーが集まっているのか、少しずつ聞いてみた。何でも、同学年の集まりらしい。ということは、確か13組まであったから、50人平均として650人。当然、クラスが一度も一緒になったことがない人々が大半なのだ。なるほど、私の知らない連中がたくさん混じっているはずだ。
 でも、大半の人間が親しげに口をききあっているということは、みなよほど熱心に同窓会に参加しているのであろう。

 酒はありがたい。飲むほどに、酔うほどに、口が軽やかに動き始めた。そして私は、驚きの事実を発見する。多くの人々に、私のイメージが残っていたのである。


 「いやー、クラスが違って付き合いもなかったと思うけど、よく私のことを覚えていてくれるねえ」

 「だって安堂君、君は生徒会長だったじゃないか。そりゃあ知ってるさ」


 正直に書く。私は生徒会長をしていない。選挙に立候補はしたが、落選した。私がやったのは、1年生から2年生にかけての副会長である。

 「あれー、そうだっけ? ああ、そうか、会長は西山君だったっけ。でも、君の方がイメージぴったりなんだよな」

 あの麻生さんが、ん10年後まで生きていたとして、

 「いやあ、あの時麻生さんが安倍さんを引き継いでくれて良かった。おかげで日本は救われましたよ」

 と挨拶されるのに似ている。確かに総裁選に立候補した。勝てると思った。だけど、勝ったのは福田だった。さて、挨拶された麻生さんは何を感じるか。ん10年の歳月がひょっとしたら正確な記憶と、人の話に反応する感受性を奪っているかも知れないが。
 が、私はまんざら悪い気がしなかった。私って変?

 
 「安堂君、ホームルームですごい議論をしたよね。我々は何故勉強しなければならないのか、というテーマだった。安堂君は、高校での勉強は大学に進むための手段にすぎないという大論陣を張ったんだよなあ。感心したよ。それに反論したのが西山君でさ。手段ではない。もっと純粋なものだ、といってたねえ」

 私の記憶力には、家族が驚く。この「らかす」で書く昔話も、妻にとっては

 「そんなこと、あったっけ?」

 の世界でしかない。
 その私が、このホームルームの話はすっかり忘れていた。いわれて、記憶にかかっていたホコリが吹き飛んだ。
 高校での勉強は単なる受験テクニックの習得である。これを学問と思ってはいけない。生きていく上で役に立つとも思ってはいけない。受験が終われば、大半の知識は脳裏から消え失せる運命にある。ただただ大学に受からんがために、どうでもいい知識を頭に詰め込んでいるのが我々ではないか。テクニックと割り切らずに、こんな無味乾燥なことができるか?
 そんな趣旨だった。
 驚いた。いまでもその考えは変わっていない。


 「安堂君といえばビートルズですよ。強烈だったなあ」

 そう声をかけてきた奴もいた。そう、 「シネマらかす#1:LET IT BE − 5人目になりきった」でご紹介したように、不良の音楽の最たるものとされていたビートルズの「Rubber Soul」を、生徒会予算を使って購入し、校内放送で流したのは私なのである。それが、よほど強い印象を残したらしい。

 どうやら私は、昔からやたらと目立つ存在だったらしい。


 話は弾んだ。ほとんどの参加メンバーが、私にとっては実質初対面のようなものである。なのに、いつしか10年来の知己のように話し込んだ。同じ高校で同じ時間を共有した。たったそれだけのことで、人と人の距離がぐっと近くなる。
 1次会だけで引き上げるつもりで出かけてきた。なのに、2次会会場にまで足を運んだ。

 大学の先生がいた。自衛隊の幹部がいた。小学校の教師がいた。NTTから子会社に出た奴がいた。JTから子会社に回った奴もいた。自然保護で世界を飛び回っている奴、ボランティア活動に打ち込んでいる奴。
 我々は、片田舎の県立高校の卒業生である。決してエリート校ではない。それなのに、不思議なほど多彩な人生がある。この世のどこかで、しっかりとこの世を支えている。人間とは素敵なものだ。

 自宅についたのは9時頃だった。8時間以上も飲み続けたことになる。
 夕食がまだだった。妻に茶漬けをつくってもらい、掻き込んだ。目が開けていられなくなり、歯を磨こうと洗面所で歯ブラシをくわえた。すぐに、胃の奥から押し上げてくるものがあった。

 「いかん!」

 と思ったときは、もう遅い。押し上げてきたものが口から飛び出した。ここではダメだ、トイレに行かねば。頭は信号を発する。だが、体が伴わなかった。トイレに足を向けようにも、胃は矢継ぎ早の攻撃を仕掛けてくる。ここで体を移動させれば、床にぶちまけることは必至である。
 胃の攻撃の隙を見て、トイレに駆け込んだ。胃から出るものはほとんど残っていなかった。

 「食ったもの、全部出しちゃったか。が、まあ、メタボ一歩手前の体だ。今日はダイエットに成功した日とするか」

 と1人思いながら布団に入った。気がついたら朝5時半だった。犬を連れて散歩に出た。昨日の雨が嘘のように晴れ上がり、気持ちのいい朝だった。やはり、昨日は普段の行いがよろしくない奴が混じっていたのに違いない。確信を強めた。
 戻って新聞受けから新聞を取り、茶の間で目を通した。7時、瑛汰を起こし、7時半から朝食。空腹は最大の調味料、を実感する朝食だった。

 以下は余談である。
 妻と、瑛汰を連れて泊まりに来ていた次女に、前夜について最大級の侮蔑語を投げつけられた。慣れているとはいえ、やはり少しは応える。
 さて、この反省はいつまで生きるだろう? いまだに、年に数回は飲みすぎてるものなあ……。


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