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 2007年12月2日 幸運

 今朝、床屋に行った。髪を切りそろえた頃、新しい客が来た。床屋の主人と、その客の会話。

 「どうしたの? えらい痩せちゃって」

 「胃を切ったんだよ」

 「えっ、そうだったの。で、やっぱ、ガン?」

 「うん」

 「そうかぁ、胃潰瘍じゃなかったんだ」

 「検査に行ったろ。何も言われないでそのまま帰ったんだ、その日は。そしたら翌日、家族の方も一緒に来てくださいって連絡があってさ。行ってみたら外科部長にも同席してもらいますって言うから、やばい、と思ったんだ。そしたらそうだって」

 「うん、うん。最近の医者はズバッと言うからね」

 「そのまま入院。胃を全部と十二指腸を取ったんだ」

 「そうだったの」

 「医者に、あんたは運がいいって言われてね。ガンが胃の表面じゃなくって、内側の方にできてたんだって。胃カメラでもなかなか見つからないところなんだってさ。それが見つかったんだから運がいいって。俺もそう思うよ」


 聞くともなく聞いていて、私は思った。
 あんたの運はちっとも良くない
 運がいい人はガンにならない。ガンになった時点で、あなたは不幸な人である。しかも、あなたのガン病巣は、見つかりにくい胃壁の内部にあった。不幸な人々の中でも、さらに不幸な人に分類されてしかるべきだ。その病巣が、たまたま見つかった。こういうのを、日本語では
 不幸中の幸い、という。
 決して、運が良かったとは言わない。

 2人の会話は続く。

 「で、今日はね、髪が伸びたから床屋に行きたいんですって先生に言ったら、ああ、行ってきなさい、行ってきなさい、と言ってくれてさ。それで病院から来たんだよ」

 「そうなんだ。でさ、医者ってさ、手術が終わると、リハビリしなさい、リハビリしなさいって言うでしょ」


 この床屋のご主人、半年ほど前に脳梗塞で入院した体験がある。

 「そうなのよ。手術は3時間で終わってね、で、医者がリハビリしろ、しろっていうから、翌日から病院の中を必死になって歩いたよ」

 そうか、病院の中を、点滴の袋が下がった補助具を曳きながら歩いている人たちはリハビリしてるんだ。初めて知った。

 「でも、あれよね。俺もさ、1週間は必死こいて歩いたんだけど、1週間すると痛みが引くんだよね。引くとさ、何となくのんべんだらりとなって歩かなくなるのよ」

 「うん、分かる、分かる」


 私には分からない。

 「で、毎日ベッドでボーっとしてて、おかげで筋肉がなくなっちゃってね」

 おいおい、筋肉がなくなって、どうやってここまで歩いてきた? 筋肉は落ちたかも知れないけど、まだ残ってんだろ? 
 それに見たところ、スリッパを突っかけてるけど、筋肉が落ちてるんだったら、靴履いた方が歩きやすいと思うよ。まだリハビリ中なんだから、体、いたわってやんなきゃ。

 「あのさ、いま体力なくなってるからさ、パンチパーマはやめた方がいいよ。体力がなくなってると薬剤にかぶれてかゆくてかゆくてどうしようもなくなるから」

 「やんないよ。髪が短くなってさっぱりすればいいんだから」

 パンチパーマも病気には勝てないらしい。だったら、パンチパーマでブイブイ言わせるのは健康の証か?

 今日の床屋は面白かった。

 髪を刈り終えて私は、途中の薬局でビッグコミック・スピリッツを買い(この薬局は、副業として週刊誌を置く。しかも、スピリッツは書店より1日早く店頭に並べる)、自宅に戻った。
 あとは大半の日曜日と同じである。瑛汰の飼育係である。直ちに妻を伴って車を転がし、次女と瑛汰のお迎えに出向く。その足でイトーヨーカ堂へ。
 まもなく、瑛汰が私の胸で寝息を立て始めた。重い。
 明日、整体に行こうかなあ……。

 そうそう、特記事項。
 瑛汰が、

 「ないない」

 と言う言葉を覚えた。ないない、と言いながら物をしまう。

 私は整理が苦手である。会社の私の机は、髪がうずたかく積み上がっている。ただ、必要な物は、必要なときに何となく見つかる。この歳までそうやってきた。
 瑛汰が、三つ子ならぬ一つ子の魂を持ち続けることができたら、いつも整理整頓が行き届いた机の前に座る人間になるはずである。
 期待したい。ま、私と同じタイプになっても大して困ることもないが。
 

 

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