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 2008年3月2日 BW800レポート・その6

 昨夜、大事件が勃発した。午後10時半頃のことである。
 私は夕食にエビスビールの大瓶を2本飲み、8時半頃からパソコンに向かっていた。横には焼酎の紙パックと茶碗がある。焼酎は「博多の華」。先日、近くのイトーヨーカ堂での妻の買い物に付き合っていたとき、

 「安売りやってるわ」

 と妻が買い求めた。私はバーゲン品の焼酎で一時の憩いを求める亭主である。

 まあ、それはどうでもよろしい。パソコンの前に陣取ったのは、「らかす日誌」を書こうという殊勝な心がけのためであった。
 茶碗酒、ならぬ茶碗焼酎を飲みながら、執筆は快適に進んだ。2時間足らずでとりあえず完成した。こいつを一度保存し、見直しながら、フォントを大きくして色を付けたり、過剰な表現を削ったり、足りないところを補ったり、わかりにくいところは書き直したり、というのがいつもの習慣である。私の完成原稿はこうしてできあがる。書いたらそのままアップ、などという手軽なことは絶対にしない。

 昨日もその手順に従った。まず、保存をしようとした。
 事件はその時起きた。ホームページ作りでは100%依存しているDreamweaver8がむずがり始めたのである。コマンドキーとSキーを押した(これが、Macでの保存のショートカットです)にもかかわらず、出てくるはずのダイアログボックスが出てこない。
 やばい!
 消えた。目の前にあった原稿があっという間もなく消えた。Dreamweaver8がクラッシュしたのである。2時間もかけて書いた、血と汗と涙と知性の結晶が瞬時に失われた。

 Dreamweaver8とは、非情に脆弱なソフトである。それは身にしみて分かっていた。いまも、時折目の前で不振な動きをしている。最も頻繁に起こるのは、画像を挿入する際だ。しばしばクラッシュしてくれる。何度も痛い目にあった私は、画像挿入の際は、必ず一度保存してからにする。とんでもない女と付き合うときの心構えのようなものだ。
 だが、まさか保存しようというときにクラッシュするとは……。

 私の備えが不十分であったのかも知れない。とんでも女はとんでも女なのだ。いつ何時、どこでどのような行動に出るか分からないからとんでも女なのだ。だから可愛いということもあるが……。

 が、である。こいつはそんじょそこいらのとんでも女ではない。商品として堂々と売られているソフトウエアなのである。マクロメディアという会社が3万数千円の単価で販売している。私もそれだけの対価を支払って我がものとした。「らかす」を立ち上げたときのことである。

 それが、こんなに簡単にクラッシュする?
 どこからどう見ても欠陥品ではないか。当時手伝ってくれた知人が、Dreamweaver8なら使ったことがあるから教えてあげる、といったから買った。こんな欠陥があるとは全く知らずに……。
 俺の2時間を返せ!!!!

 デジキャス時代に一緒だったH氏の言葉を思い出す。

 「考えてみれば、パソコンってひどい商習慣を定着させたよね。世にあるソフトでバグがないものなんてないじゃない。バグがあったって平気で売る。メーカーじゃ考えられないよね。バグのある製品を売ったら訴えられちゃうから」

 そんな欠陥品を堂々と売る連中がガッポガッポと儲けて我が世の春を謳歌する。IT時代とはそのような時代である。どこかが、何かがおかしい。
 もっとも、奴らの懐を支えているのは、私のような末端ユーザーなのだが……。


 というわけで、今日は朝から、昨日失われた原稿の再現作業に取り組まざるを得なくなった。究極の2度手間だが、やむを得ない。さて、どこまで再現できるか。

 (うん、ここで一度保存しておこう)

 また一つ賢くなった。いや、賢くならざるを得なかった。BW800である。
 問題点の大部分は解決したものの、もう一つ解けない謎があった。BW800ビデオモードのDVD-Rを焼く方法である。

 DVDの記録方式に、ビデオモードとVRモードがあることは、すでに「2008年2月23日 BW800レポート・その2」で報告した。そこまでの知識を手に入れた私は、BW800でビデオモードのDVDを焼きたいと考えた。VRモードで焼いたDVDは、我が家のDVDプレーヤーでは再生できないのである。

 自慢ではないが、我が家に多数ある音響機器で、妻が操作できるのはクリスキットのアンプ、CDプレーヤー、それにDVDプレーヤー程度である。デジタルビデオデッキになると、毎回操作方法を教えなければならない。何度教えても、見事なほどに忘れる。知識の保存場所が極めて狭い特殊な脳構造をしているらしい。BW800を操作させるなど思いも寄らない。
 だから、妻の映画鑑賞に役立てようと思うと、ビデオモードしかない。それだけでなく、家を出て行った子供たちのビジュアル生活は、すべて我が家で録画、ダビングしたDVDで成立している。レコーダーを持っている家庭もあるのだが、自分のレコーダーを使おうとはせず、すべて私に発注する。
 まあ、親というものは子供がいくつになっても親であり続けるしか生き方がない。理不尽なこともあるが、生物界の掟とあれば受け入れざるを得ない。だから、リクエストが続く。その子供たちの家庭にあるDVDプレーヤーも、恐らくビデオモードしか再生できないに違いない。
 となると、私がビデオモードのDVDを作成できるかどうかは、夫の権威、父親の権威に関わる大事である。研究せざるを得ない。

 まず、おまかせダビングを試みた。ビデオモードでダビングしたい番組を選ぶ。この番組はハイビジョン画質ではなく、標準画質で録画してある。録画モードは、自動的にDVD1枚に収まるデータ容量にするFRである。
 おまかせダビングでは、ハイビジョンか標準画質か選ばねばならない。当然、標準画質を選ぶ。すると、困ったことに自動的にVRモードでの録画になってしまう。どこかでビデオモードに切り替えができるはずだと、取扱説明書に当たる。わからない。標準画質のダビングは、ビデオモードかVRモードで行われる、と書いてあるのに、である。

 やむなく、詳細ダビングを選ぶ。まず、ダビング方向を選ぶ。ダビング元はハードディスク、ダビング先はBD/DVDである。次は、ダビング素材、録画モードの設定だ。ダビング素材はビデオ、写真しか選択肢がないから、当然ビデオを選ぶ。ここまではいい。
 次はリスト作成だ。恐らく、ダビングしたい素材をハードディスクに録画されてるものから選択する過程である。で、選択しようとする。が、これが選択できない。ついには、ダビングできないDVD-Rがセットしてあるので、フォーマットせよと命じてくる。
 へえ、そうなんだ。フォーマットの仕方は、と説明書を見ると、ビデオモードでダビングする際はフォーマット不要と書いてある。えっ、だってフォーマットしろって命じられたんだけど、と口走ってみても、BW800、取扱説明書は何も語ってくれない。
 こうして私は、出口のない迷路に入り込んだ。

 こんな時はここしかない。そう、お客様ご相談センターである。

 0120-878-365

 という電話番号を暗記してしまった私は、お客様ならぬ、お得意様であるに違いない。

 「あのー、BW800なんだけど」

 「はい、どのような件でしょうか?」

 「BS2からFRで録画した映画をビデオモードでDVD-Rに落としたいんだけど、どうすればいいんですか? 説明書を見ても分からないし」

 「あ、それはできないことになっております」


 !!!

 「できないって、あなた。説明書には標準画質はビデオモードかVRモードで焼くって書いてあるではないですか」

 「ですから、お客様。デジタル放送から録画された素材は、VRモードでしかダビングできない仕様になっておりますので」

 「それは変じゃない? だって、我が家のDVDプレーヤはパナソニックのS-75なんだけど、それでも再生できないよ。それじゃあ、DVD-Rに焼く意味がないじゃないの」

 「はい、申し訳ございません。当社でいいますと、S-50はVRモードに対応しているのですが、それまでのプレーヤーは未対応でして」

 「そんないい加減な。何でビデオモードで焼けるようにしてくれなかったのよ」

 「申し訳ありませんが、そのようなことになっております」


 この女、頭がおかしいのではないか? 同じ会社のプレーヤーでも再生できないディスクしか作れない仕様を採用するなど、メーカーの責任放棄ではないか。
 ひょっとしたらこの女、知識が足りなくて、あるいは私をクレーマーだと誤解して、いい加減な答をしたのではないか? パナソニックともあろう会社が、そんな無責任なことをするはずがない!

 ネットで調べた。納得した。やはり、ビデオモードでのダビングはできないのである。
 原因は、放送挙局が実施しているコピーワンス、ハードディスクに録画したものは1度しかコピーできず、コピーして作ったディスクからはコピーができない、という規格のためなのだ。VRモードだと、このコピーワンス情報を記録できる。ところが、ビデオモードだと、これを記録できない。メーカーとしては、この規格がある以上、ビデオモードでのダビングを許してはならないのである。
 単に、BW800の仕様の問題ではなかったのである。

 納得した。が、納得できなかった。何でそんな規格を作るの? ユーザーは不便きわまりないではないか。
 あれもこれも、テレビ局の不勉強な官僚どもの仕業である、と考えた。が、いや、奴らは操り人形に過ぎない、と考え直した。
 真の敵は、ハリウッドに代表されるコンテンツの供給元である。完璧に同じものがコピーできるデジタルの世界を彼らは恐れた。コピーを野放しにすれば、彼らは商機を失う。テレビで放映されたもののコピーが出回れば、DVDもブルーレイも売れなくなる。だからテレビ局に圧力をかけ、コピーワンスなどという、全く反人民的な規格を作らせたに違いないのだ。

 憤りが沸きがった。が、憤るだけでは解決にならない。私は考えた。アナログの世界ではこのコピーガードを打ち破る強い味方がある。画像安定装置、などの名称で売られており、我が家でも活躍している。そのうち、デジタル放送でも同じものが登場するに違いない。それまでの我慢である。

 と思い立ち、我が家で使っている画像安定装置のメーカーに電話を入れてみた。

 「ということなんですけど、デジタル用の画像安定装置って、いつ頃商品化されますか?」

 意外な答えが返ってきた。

 「いやあ、商品化されないと思いますよ」

 私と同じ悩みを持つ人は多いはずである。だから、市場はある。市場があるのに商品が出ないのは、資本主義の原理に反する。

 「だって、私にはよく分かりませんが、原理的には極めて簡単に作れると聞いたことがあります。多くの人が待っているはずなのに、どうして作らないんですか?」

 「私たちも、手が後ろに回るのはいやですからねえ」


 そうか、国家権力はそこまで手を回しているのか。とすると、その後ろにあるのはアメリカの国家戦略に違いない。何しろアメリカは、映画と音楽、それにソフトウエアしか輸出商品がないものなあ。
 それは分かった。だが、後ろに手が回るのはあなたの手であって、私の手ではない。だから、あなたが商品を出してくれれば、私は喜びさえすれ、痛みは一向に感じない。だから、一刻も早く出して欲しい。それに、いまの商品だって相当にグレーゾーンじゃない。どうしてもう一歩進もうとしない? そういいたかったが、いえなかった。私は気弱である。
 ほかのメーカーが奮起してくれるのを待つしかない。

 私は粘る。とにかく粘る。相撲でいえば、2枚腰、3枚腰の粘りである。
 出口のない問題に、出口を見つけなければならない。そう、こういうときはパソコンである。なにしろ、コピーガードされているはず市販DVDだって、Ripperを使えばコピーできる時代である。私も、あまり使わないが、MacTheRipperというフリーソフトを持っておる。こいつを使えば何とかなる?
 再びネットで調べた。出口がなくなった。MacではVR方式のDVDは認識しない……。

 かくて、出口はすべて塞がれた。ではせめて、妻の映画鑑賞の機会だけでも確保しなければなるまい。S-50。価格.comで7940円。配送費、代引き手数料を含めれば9000円というところか。これを買えば、妻の映画鑑賞権だけは確保できる。
 かいつまんで妻に話した。

 「早い話が、プレーヤーを買い換えないと、これからのDVDは見られないんだわ」

 反応は予想外のものだった。

 「何か一つ買うと、次々にお金が出ていくのね。いつもお金は出っ放しだわ」

 …………。
 お前は、この結論に至るまでの私の葛藤を理解して、そのような反応をするのか? ニューマネーを出さずにすむように、私がどれだけの努力をしたと思っているのだ? 私はいい。私はBW800で見ることができる。この9000円ほどの機械を最大に利用するのはお前ではないか。なのに、どうして私が悪いことでもしたかのように難詰するのだ? それほど短絡的に、条件と結論を結びつける能力はどのようにしたら身に付くのだ? 私は考えて考えて考えた挙げ句にこれしかにという結論に達したというのに。
 私も同じようにしか考えない脳が欲しかった。世の中がどれほど単純に、わかりやすく見えることであろうか。

 と口にはしなかった、男は黙って耐えるものである。耐えきれなくなるまでは。
 じっと耐えながら、こんなことを思った。

 知識は、知性は、人を幸せから遠ざける。単純に生きるに越したことはない……。

 おおむね、このようなことを書いたとき、Dreamweaver8がすっ飛んだ。すっ飛んだあと、我が身の不幸を呪いながら考えた。

 うん。S-50を買うのは見送ろう。どうせ近いうちに、ブルーレイ・プレーヤーが発売されるに決まっている。DVDではレコーダーとプレーヤーの価格差は6倍から8倍である。とすると、BW800も価格.comでは14万円を切ってきたし、そこから計算すれば2万円前後で売り出されるはずだ。それまでは不自由に耐える、妻が。

 ん? だとすると、何も考えずに新たな出費に抵抗した妻の結論と、考えに考えた末に出した私の結論に、どこに違いがある?
 知性とはその程度のものか。恐るべし、単純思考!

 

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