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 2008年9月6日 ホテル

 このところ、仕事や飲み会が重なって、なかなか更新ができなかった。ごめんなさい。
 でも、Webって怖いもので、更新をさぼると見事にアクセスが落ちる。はいはい、頑張ります!

 その仕事で、4日から5日にかけて新潟県に行ってきた。新潟市―南魚沼市―長岡市を2日で駆け抜ける。なかなかの強行軍である。

 という報告を前日妻にした。即座に反応が返ってきた。

 「あ、お米がなくなりかけてるから、南魚沼のコシヒカリを10kgほど送ってよ。米どころなんだから」

 おいおい、俺は仕事に行くのである。買い出しに行くのではないぞ、と発言する言論の自由を私が持ち合わせていないのは、世のご亭主族と同様である。
 が、今日書きたいのは、そんなつまらない話ではない。
 ホテル、である。

 今回の仕事は、ある学生のツアーの視察であった。ツアーコンダクターに宿の手配も頼んだ。宿は南魚沼市にあった。

 南魚沼に足を踏み入れたのは、今回が初めてだった。どころ、どころ、そして豪雪地帯。東京で想像する南魚沼は、凌ぎやすい夏を持つ町である。くそ熱い東京に比べれば、きっと涼しいに違いない。夏嫌いの私は、頭からそう信じていた。
 そんな思いこみは、到着と同時に打ち壊された。暑い、蒸し暑い!

 「このあたりは、夏暑くて冬寒いんです」

 と地元の人がいった。そうか、コシヒカリも湊屋藤助も、この過酷な気候が生み出した逸品であったか。

 夕刻、私と学生の一行を乗せたバスがホテルに着いた。その日の宿である。3階建ての瀟洒な建物だ。看板には

 ご宿泊
 ご休憩
 ご宴会

 などと書き連ねてある。なぬ? ご休憩? ということは、あれか? このホテル、場合によってはラブホテルにも変身するのか?

 まあ、そんなことはどうでもいい。バスを降り、湿り気を含んだ空気に包まれてロビーに向かった。蒸し暑い。何とかならないか。ホテルに入れば全館エアコンディショニングされているからいいようなものの……。
 
 常識が見事に裏切られる時、私は快感を感じる。常識とは狭い知見が生み出す、とりあえずの結論でしかない。世の中は広いのだ。今日の常識が明日も通じるかどうかは分からないのだ。だから、生きることは面白いのではないか。
 といつもなら考える。
 が、このホテルで思い知ったのは、常識を裏切られると暑いということだった。このホテル、全館エアコンディショニングではなかった。ロビーだけは軽くエアコンディショニングされていた。私が割り振られた309号室でもエアコンは稼働していた。
 が、廊下はほとんど自然のままだった。エアコン、どこにある? 必至に探したが、少なくとも私は発見できなかった。

 まあ、それもこのホテルの方針ならしかたあるまい。暑ければ、自分の部屋からでなければいいだけのことだ、と気を取り直した。
 
 部屋に入った。体は汗まみれである。シャワーを浴びてさっぱりしたくなるのは人情というものだ。
 で、部屋を見回した。浴室はどこだ?
 入り口から入り、部屋の左側は窓である。その反対側には床の間と作りつけの洋服ダンスがある。 正面は壁だ。
 ん? 浴室はどこだ?
 探した。残る壁面はふすまだった。あけてみた。布団が入っていた。
 ということは、浴室はどこだ?
 見逃したのかも知れない。ひょっとしたら、靴脱ぎのあたりに浴室への入り口があるのか? 靴脱ぎまで戻った。何もない。ということは……。

 と考えていて、もっと大事なことに気がついた。トイレは?
 隅々まで浴室を探した。なかった。同時にトイレもなかった。えっ、トイレも浴室もないホテル? おい、これで「ご休憩」って、あの目的で入ってきた客はどうすりゃいいんだよ!
 などと笑っている場合ではない。このままでは汗が流せないだけではない。排泄欲求も満たせないのだ。
 廊下に出た。左を見ると、トイレの看板が掛かっている。ということは、あれか。このホテルは共同便所……。
 トイレの手前に洗面所があった。あ、そう。ここで顔を洗ったり歯を磨いたりするのね。でも、よくよく見ると、口をゆすぐために使うコップは1つだけだし、ドライヤーの備え付けもない。おいおい、このホテルの3階に泊まった客は、この1つのコップを使い回して口をゆすぐの? 濡れた髪は自然乾燥察させるの?

 ひどい。あまりにも酷い。だが、私にできることは何もない。とにかく、一晩はここで我慢するしかない。
 
 人間とはさもしいものである。いや、一般論にしてしまってはいけない。私はさもしい人間である、と書いた方が正確だ。
 このような環境下で私は物思いに耽った。さて、このホテル、どう考えたらいいんだろう?
 しばらく考えていて、1つの結論に達した。そうか、今回は学生のツアーである。だから、サービスの質ではなく、コスト優先で選ばれた宿であるのに違いない。であれば、すべてが理解できるではないか。かつての木賃宿はもっと粗末なものであったに違いない。それに比べれば、とりあえず1人で1室を占拠できるわけだし、恵まれていると考えてもいいのではないか?
 では、コスト優先で選ばれたこのホテルの宿泊代はいくらだろう? 想像が膨らんだ。かつて函館で利用したホテルは朝食付きで3500円であった。それでも、部屋の中にトイレも洗面所もあった。とすればここはせいぜい3000円。いや、ひょっとしたら2500円? それなら納得できる。まあ、会社が払うホテルだだから、いくら安くても私のメリットになるわけではないが。

 翌朝、出発3,0分前にロビーに降り、チェックアウトを申し出た。渡された請求書を見て、私は開いた口がふさがらなかった。
 部屋代は

 7000円

 と書かれていた。えっ、7000円? あのねえ、7000円出せば、東京でだってもう少しましなところに泊まれるって。ここ、新潟県南魚沼市でしょう? この価格、暴利じゃない? 暴利だよねえ。暴利に決まってる!

 とはいわなかった。
 カードを渡して精算した。

 「お世話になりました」

 といってカウンターを離れた。
 もう泊まっちゃっていまさら変更はきかないし、7000円を払うのは会社だし。ここで喧嘩しても私には何のメリットもないもんねえ。

 だけど、7000円。恐るべし、南魚沼市、である。

 

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