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 2009年1月16日 私と暮らした車たち・その24 BMW318iツーリングの1

 前回の日誌を最後までお読み頂いた方々にお尋ねしたい。
 末尾の

 「だが、燃料計が修理されることはとうとうなかった。燃料計がピクとも動かなくなる前に、ベンツC200自体がピクとも動かなくなったのである。
 あと1回でローンの支払いが終わる、1月のことだった」

 の部分をお読みになって、私が遭遇した壮烈な交通事故を思い起こして頂いたであろうか?
 「事件らかす #3 安堂礼人、交通事故に遭う」に詳述した事故である。まだお読みでない方はいまからでも遅くはない。是非ご一読頂きたい。あわせて、「事件らかす #4 #4 事故その後」をお読み頂ければ事故の全貌と周囲の反応がすべて既知のものとなり、今回の日誌を読み進む準備はすべて整う。

 では、すべてお読み頂いたことを前提に話を進める。


 とにかく、私が愛したスパイ、ならぬベンツC200は、その事故でおシャカになった。燃料計が修理される機会は永遠に失われた。
 まあ、修理代がかからなかったのは目出度いことである。
 だが、我が家から車がなくなった。修理代不要のめでたさを中くらいのめでたさにしてしまう傷であった。なにしろ、我が家の車は私の足ではない。私は足が達者だから、ちょいと考え方を変えれば車なしでも暮らしていける。だが、妻はそうはいかない。ご丁寧に、左右の足を付け根で骨折した妻は、いまでも歩行がぎこちない。長距離の歩行は困難で、ために、車がなければ買い物にも不自由するのである。車は妻の足なのだ。私が専属運転手としての仕事を黙々とこなす大半の理由はそこにある。困ったことに、妻は運転免許を持っていないのである。

 車がいる。直ちに新しい車がいる。ベンツC200がレッカー車で運ばれて、私はそんな事態に直面した。

 
 私はベンツC200に深く満足していた。もうこれ以外の車には乗れない、と考えるほどに愛していた。それは、前回までの日誌でご理解頂いたと思う。
 それほど愛した車が消えたとき、人は何を思うのだろう?

 人のことは分からない。だが、私のことなら分かる。私は、次の車選びでベンツを最初から除外した。
 最大の原因は、前回書いたようにディーラーの対応に怒ったからである。あのディーラーには、2度と足を踏み込みたくなかった。

 ひょっとしたら、「らかす」をお読み頂いている方々の中にも、車を販売していらっしゃる方がおられるかも知れない。客は、このような原因で離れていくことを肝に銘じて頂きたい。

 いや、それだけならヤナセで買うという手も残されていた。なにも、ベンツ直系のシュテルンでベンツを買う必要はない。ベンツという車を日本に紹介してきっちり根付かせたのに、あれよあれよという間にベンツに販売権の大半を取り上げられたヤナセには同情も共感もするのが私なのである。
 だが、それでもベンツは除外した。

 当時の私は、以下のような状況にあった。

 事故が起きた2003年1月、Cクラスのベンツはすでにフルモデルチェンジされていた。ひょうたん型のヘッドライトが特徴の新しいCクラスは、私には理解不可能な形をしていた。

    bentz 

 なんでこんな変な車になっちゃったんだ? 妙にグニャグニャして、気持ち悪っ! あのがっしりした、車はこれでなくっちゃ、というベンツの形、重厚感はどこに行ってしまったんだ?
 最初に見た時、私は100年の恋が冷めた。いまだに冷めっぱなしである。このスタイルのベンツオーナーには申し訳ないが、見るたびに、何が嬉しくてこんな奇妙な車に乗ってるんだろう、と思ってしまう。

 信頼できる自動車雑誌の新ベンツも散々だった。ラテンに憧れたゲルマンが、やっぱり己はゲルマンでしかなかったと思い知ったはずのデザイン、と書いた雑誌もあったように思う。質実剛健なゲルマン民族が、美への鋭い感性を持ったラテン民族の真似をしても失敗するだけ、という意味だろう。

 最も信頼するカー雑誌、「マガジンX」による評価も散々だった。うろ覚えだが、ベンツがブランド商売に走った、ベンツはトヨタになりたがっている、とこき下ろしていたと思う。必要なところにはきっちりコストを掛けて質の高い車を作るのがベンツの特徴だったのに、新しいベンツはコスト削減に血道を上げ、安く作り上げた車をベンツブランドで高く売る商売に転じた、という意味である。

 ブランドを築き上げるには永年月かかるが、壊すのは一瞬でできる。Cクラスがモデルチェンジした2000年、私はベンツへの関心を完全に失った。もはや、ベンツは私にとってブランドではない。
 いや、それでもベンツである。今回のモデルチェンジの失敗に懲りて、次のモデルではきっといいものを出して来るに違いない、と考えるようにした。いや、そう願った。なにしろ、私はC200に15年乗る予定なのである。次の車を買う時期には、この奇妙なベンツはなくなり、やっぱり信頼のベンツが登場しているはずである。
 2007年に登場した3代目Cクラスも、私の目にはどうでもいい車だった。おいおい、ベンツさんよ、栄光の日々を思い出せや!

 そんなころ、「マガジンX」の記事が私の関心を引いた。BMWが4気筒エンジンにバルブトロニックを採用した。「吸気バルブのリフトを無段階に制御する」(ウィキペディアより)といわれても工学音痴の私には、はっきり言ってよく分からん。だが、「優れたスロットルレスポンスや、吸気抵抗の低減による燃費やエンジン出力の向上が実現出来る」((ウィキペディアより)という部分は記憶に焼き付いた。
 「マガジン」は、走りの味は変わらないが、燃費は15%から20%はよくなる。高速に乗ればリッター20kmだって走れる、と手放しの絶賛だった。

 「へーっ、そんなに素晴らしいエンジンができたのか」

 理詰めで来られると、私のようなインテリはいちころである。特に、工学音痴なのにインテリである私は先端技術にはからきし弱い。信頼するメディアに誉めあげられている技術には心が騒いでしまう。

 とりあえず、通りかかったBMWのディーラーで実車を見た。柔らかい曲線で構成されるデザインは大変に好ましかった。ベンツにはない色気がある。物欲を刺激する。BMWに憧れる人が多いのも頷ける。
 と思いながらドアを開けて中を見た。

 「あれーっ、ベンツに比べると、なんかショボい

 珍しく、私と妻の意見があった。ベンツの、質素な中にもある重厚感はここにはなかった。なんだか、プラスチックのおもちゃみたいだ。ドアの開閉音も騒々しい。いまではカローラだってもっと重みのある音を出すぞ!
 あまり時間がなかったこともあって、試乗まではしなかった。なにしろ私には愛するベンツC200がある。どっちみち、買う気はないのだ。時間を掛けて試乗までする必要はない。

 それに、BMWなら6気筒に乗れ、というのは車好きの常識である。シルキー6とも呼ばれるBMWの6気筒エンジンの評価は高い。私は乗ったことはなかったが、

 「バルブトロニックが6気筒エンジンに採用されたら、ひょっとしたら欲しくなるかも知れないな」

 とは考えた。
 だが、いずれにしても車を買い換えるのは10数年後である。ベンツだってワーゲンだって新世代エンジンの研究は進めている。10年もすれば、BMWのバルブトロニックを超えるエンジンが世に出るかも知れないではないか。いまからバルブトロにニックに決め打ちすることもない。
 その程度の軽い気持ちだった。

 そんな中で、事故が起きた。C200に首ったけだった私には、何の準備もなかった。欲しい車がなかったのである。だが、瞬時に次の車を決めなければならない。

 ベンツは問題外だ。ワーゲンは目新しさがない。ジェームス・ボンドの愛車、アストン・マーチンは逆立ちしたって買えない。これほどエロチックなデザインはほかにない、と憧れるマゼラッティも、我が購買能力の遙か彼方にある。ボルボ? かったるそうだしなあ。ミニは小さすぎるし。
 さて、何にする?

 種々の条件を勘案した。結論はすぐに出た。私は決断が早いタイプである。なにしろ、私は会って実質3日目に妻との結婚を決めていた。早撃ちには定評がある。困るのは後でいい。

 BMWにする。本当は6気筒のバルブトロニックが欲しいが、4気筒しかないのなら仕方がない。俺はバルブトロニックに乗る!

 BMWのディーラーに電話をしたのは、事故が起きて数時間度のことだった。

 「318のワゴンが欲しいんだけど、何日ぐらいで納車で飽きる?」

 私は、BMWオーナーへの道へ踏み出した。

 

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