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 2009年7月4日 灯台下暗し

 とはこのようなこという、という話である。

 我が愛車、BMW320iツーリングの走行距離が2万4000kmを超した。走るほどにエンジンは快調になり、日々快適なドライブを楽しんでいる。時には、取り立てて用件もないのに遠出したみたりするのも、そのためである。
 ハンドルを握るのが楽しくて仕方がない。

 と浮かれる気分に水を差すものがある。タイヤである。

 「お父さん、そろそろ溝がなくなってきてるよ」

 と指摘したのは、先月遊びに来た長男だった。そんなこと、いわれる前からとうに気がついている。なにしろ、私は毎日この車に乗っているのである。

 にしても、たった2万4000kmでタイヤが使えなくなる?

 「そうなんだよね。新車についてくるタイヤはへたりが早いというのは、どこのメーカーの車も同じなんだよねえ」

 とディーラーの武田さんはいった。
 ということはあれか? タイヤメーカーは製造ラインを2系統持っているということか? 1系統は新車装着用ライン。車メーカーからの原価を下げろの圧力に応えるため、原材料の質を落とす。もう一つのラインは、店売り用のタイヤで、ブランド価値を上げるためにいい材料を使う。
 そんなことがあるのかね?


 「そうなんだ。どこかタイヤが安いところを知らないか?」

 タイヤとは、それぞれのメーカーがブランドをつけて売っているものだ。同じ型番なら、どこで買っても、いくらで買っても、基本性能に変わりがあるはずがない。であれば、1円でも安く買うのが正解である。

 「うん、探しておくよ」

 言い置いて息子は川崎の彼の自宅に戻っていった。私は息子の捜索能力に期待を抱いた。なにしろ、二つ返事で引き受けたのだ。あてがあるに違いない。

 そんなもん、自分で安店を探せばいいではないか、というのは正論である。私も、横浜に住み続けていたらそうしたに違いない。だが、いまは群馬県桐生市の市民なのだ。
 横浜に比べてこちらは、人口が少ない。タイヤを売っている店も少ない。であれば、店同士の競争は少ないはずである。安売り店は人口が多く、同業者が沢山いて競争が激しい都会でしか成立しないはずである。競争がないところには、安く売ろうという動機がないのである。

 数日前、長男からメールが来た。それによると、基本工賃が9460円。それに、当然のことながらタイヤの価格が加わる。
 ブリジストンの
 ポテンザRE050
 レグノGR9000

 いずれを選択しても10万3740円。交渉の余地はあるとのことだったが、まあ、11万円になればよしとしなければならない。

 ええっ、タイヤってそんなに高いの?

 もう一つ問題があった。息子がレポートしてきたのは、普通のタイヤである。普通ならそれでいいのだが、困ったことに私の車にはスペアタイヤを積む場所がない。その代わりにランフラットタイヤが装着されている。パンクをしても100kmは走ることができるというものだ。安全度が高い代わりに、乗り心地はいまいち。第一、価格が高い
 だが、私の車はランフラット装着を前提に設計されている。普通のタイヤで11万円もかかるとすると、ランフラットにしたら……。

 「何いってんの。店の人に聞いたら、新車のときにランフラットをはいていても、交換するときはノーマルにする人が8割だってさ」


 と長男はいう。でも、万が一パンクをしたら?

 「パンク修理材を持ってれば大丈夫だって」

 なるほど、世間の常識はそんなものか。では、私も普通のタイヤにするか? 
 でもなあ、都会で乗るのと違って、ここは人里離れてところを走ることも多いからなあ。都会ならどこでパンクしても少しは知れば修理できるが、ここでは甘えは許されない。ランフラットだったらパンクしても何とか人里までたどり着けるだろうけど、普通のタイヤで大丈夫か?

 「だから、ランフラットの値段も聞いておいてくれないか?」

 「うん、なんでも、タイヤはいくらか高くなる程度だけど、工賃が高いんだって。ま、とりあえず聞いておくよ」


 てな会話をしながら、毎日車に乗る。乗るたびにタイヤが気になる。溝が日々浅くなる。と目で見てわかるわけではないが、そんな思いが募る。
 桐生にはたいして安い店があるはずもないが、でも、いくらぐらいで売っているのだろう? 横浜との価格差は、我慢ができないほど大きいのか? 桐生がだめなら伊勢崎は? 前橋は? 太田は?

 仕事で知り合った車好きに、タイヤ販売店の情報を求めた。

 「ああ、50号線を太田の方にいったところに、すっごく安い店がありますよ。今にも倒壊しそうな店舗ですからすぐ分かります。あそこは本当に安い

 早速出かけた。

 「こんちは!」

 返事がない。今日は休みか?

 「お休みですか?」

 と大きな声を出して、自らの論理矛盾に赤面した。休日なら返事をする人がいるはずがないではない。
 でも、休日にしては変だ。戸締まりはしてないし、あちこちに積んである新品のタイヤは、持ち去ろうと思えば持ち去れる状態である。不用心この上ない。犯罪誘発型店舗である。警察の注意を受けるに違いない。
 さほど広くない店(と呼んでいいのかどうか。あからさまにいえば掘っ立て小屋だ)を歩き回っているうちに事務所らしきものがあるのに気がついた。のぞき込むと、おじさんが2人、手持ちぶさたに座ってたばこをくゆらしている。
 おじさん? ひょっとしたらこの2人、俺より年下ではないか? ということは……。

 まあいい。男が手持ちぶさたの時はたばこをくゆらせるのである。何があっても飴をしゃぶってはいけない。この美学が分からないヤツは、男の形をしていても本当は男ではない。たばこをくゆらせているところから判断して、この2人、とみた。であれば、年齢などどうでもいい。

 「タイヤが欲しいんだけど」

 「車は?」

 「BMの3。1回目の車検が終わったばかり」

 「で、タイヤは何を?」

 「ブリジストンのポテンザRE050はどうかな、と」

 「うん、あれはいいタイヤだよ」


 「いくら?」

 「ちょっと待って……。7万7800円

 「工賃を入れるといくら?」

 「うちは工賃込みの値段だから」

 ウソ! 長男がいってきた価格より3万円以上安いではないか! 桐生で? 横浜よりこんなに安く?
 灯台下暗し
 これほど安いのなら、私にも考えることがある。

 「ほら、俺の車ランフラットじゃない。で、ポテンザでいいかな?」

 「スペアタイヤを積んで走る?」

 「いや、パンク修理材を持って走ろうかと思って」

 「やめな。パンク修理材はあてになんないから」

 「全然だめ?」

 「いや、近くのガソリンスタンドまではなんとななるかもしれないけどねえ。都会ならいいけど、群馬じゃ心配だね」

 「じゃあ、ランフラットにするしかないか。乗り心地悪いけどね」

 「うん、それに重たいから燃費にもよくない。でも、ランフラットにした方が安心じゃない?」

 「いくらするの?」

 「メーカーは?」

 「今のタイヤはコンチネンタルだけど、ブリジストンでもミシュランでもいいよ」

 「それだったらミシュランの方がお奨めだね」

 「いくら?」

 「ちょっと待って……。10万9000円

 「工賃込み?」

 「もちろん」

 「それにするわ」


 こうして私は、ミシュランのランフラットタイヤを頼んだ。在庫はなかったが、翌日、つまり昨日金曜日に

 「入荷した」

 との連絡があった。週明けに交換に行こうと思っている。

 「でもさあ、今は仕事で桐生にいるけど、俺の自宅は横浜なのね。次のタイヤ交換の時、ここまで来るわけにはいかないよねえ。せっかくいい店を知ったのに」

 「ああ、あちこちに協力店があるから、うちで買ってそこでタイヤ交換してもらえばいいんだよ。タイヤ、送るからさ」

 タイヤは消耗品である。車で走れば数年ごとにタイヤは取り替えねばならない。長いつきあいになりそうだ。
 ちなみにこの店、

 ヒロオート

 という。タイヤの交換をお考えの方は、ホームページをのぞいてみてはいかが?

 群馬で、桐生で……。思いもよらぬ店を発見してしまった、という話である。

 

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