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 2009年9月18日 ガン

 我が家にガン患者が発生した。
 患者がなら、多くの人が喜んだかもしれない。残念ながら私ではない。
 患者がなら、ごく少数の人が喜んだかもしれない。無念だが妻ではない。

 愛犬「リン」である。

 尿の出が悪く、通院を繰り返していることは何度か書いた。前回は入院したことをお伝えした。さまざまな検査を繰り返した結果、膀胱がガンに冒されていることがわかった。膀胱移行上皮ガン。獣医の呼び出しを受けて宣告を聞いたのは昨日である。

 ガン。さて、どう対処するか。
 ネットで調べてみると、このガンは処置しにくく、手術はまず不可能。無理して実行しても、1年生存率は16%とある。
 抗ガン剤は? 投与を初めての生存期間は平均10ヶ月。これだけの予備知識を持って獣医と会った(ガンである事実は、前夜のうちに妻が電話で聞いていた)。
 「リン」の尿を検査した機関からのレポートには、移行上皮様の上皮細胞が多数見つかり、

 「上皮性の腫瘍性病変が疑われ、悪性の可能性も否定できません」

 とあった。獣医がコメントした。

 「検査機関は語尾を曖昧にして責任を回避しようとします。それを前提にこれを読むと、リンちゃんはガンだと断言できます」

 まあ、あえて断言してもらう必要もないのだが。でも、そうか。尿の出が悪かったのはガンのせいだったか。

 「手術はできますか?」

 16%の可能性を探った。

 「いえ、リンちゃんの場合、ポリープができているのはないので、膀胱粘膜全体にガンが発生していると見られます。手術は無理だと思います」

 はっきりしている先生だ。

 「で、これからの治療方針ですが」

 と彼女は続けた。獣医さんは女医さんなのである。

 「薬物療法しか取れないので、まず、非ステロイド系消炎剤のビロキシカムを投与します。これは免疫増強効果もあり、学会などで聞いているといい薬です。価格が安いのもメリットです。いまから1年程度はこれだけでも生きると思います」

 これは、そのまま受け入れた。免疫を強めるのなら、ガン細胞を退治することだってないわけではない。

 「それで、なんですが」

 と女医さんは続けた。

 「抗ガン剤を投与しますか?」

 ネットで平均余命10ヶ月だったというレポートを見た薬である。

 「どれくらいの延命効果がありますか?」

 女医さんは考えた。

 長くて半年、程度だと思います。1週間ごとに1回の投与を3回続けて1クルーです。いまリンちゃんは膀胱にカテーテルを入れっぱなしにしているので、1回目はこのまま抗ガン剤を膀胱に入れることができます。2回目からは麻酔をかけてカテーテルを入れ、抗ガン剤を膀胱ないに入れることになります。費用は1回目が8500円、2回目からは麻酔とカテーテル挿入の費用がかかりますので1万7000円です」

 考えた。人間の場合、抗ガン剤の投与は時間をおいて数クルー繰り返す。髪が抜け、吐き気がし、体力が落ちる。つまり、快適な生活は送れない。
 それでも、完治する可能性があるのなら、試みてもいいのだが、長くて半年。

 妻は

 「1回だけでもやりたい」

 といった。私は

 「やめます」

 といった。妻は不満そうだった。私は女医さんに説明した。

 「抗ガン剤の投与はQOL=Quality of Life=の低下が避けられません。何回も苦しませて、それでせいぜい半年なら、充実した余生を送らせた方がいい」

 女医さんは

 「患者さんには、1日でも長く生きるのなら投与してくれとおっしゃる方もいらっしゃいますが」

 それはいるであろう。だが、私は違う。

 「それも理解できますが、私には飼い主のエゴに見えます。苦しませて半年延命させるより、楽しませて半年短くする方がいい、と私には思えます」

 夜、横浜でリンがかかっていた獣医に妻が電話した。私が出て、病名、対処方針、抗ガン剤の投与はしないことを説明した。この獣医は、その判断でいいのではないかといった。リンの余命は、こうして1年内外ということになった。

 「リン」は明日まで入院中だ。カテーテルは挿しっぱなしである。だから、まだ抗ガン剤投与を始めることはできる。いや、そのあとだって、方針を変えて抗ガン剤をつあうことはできる。妻には、

 「どうしても抗ガン剤をやりたいのならそういえ」

 といってある。私にも、迷いがないわけではない。だが、獣医のところでは不満そうだった妻も、その後は何も言わない。

 「戻ってきたらかわいがってやらなければ」

 というだけである。

 昨日、宣告を聞きに出かけたついでに、「リン」をつれて散歩にでた。檻の中に閉じこめられっぱなしで運動不足なのだろうか、珍しくリンは私の先に立ち、リードで私を引っ張った。尿はカテーテルを通じて垂れ流しだから、排尿はしなかった。でも、こんもりとウンチをした。たまっていたものを押し出して気分が良さそうだった。
 元気だった。ガンとは思えないほど、いや、若いときと同じほど元気だった。

 ある時を堺に、急に元気がなくなるのだそうだ。そうなれば、それから先は3ヶ月ほどだという。

 「リン」は明日午前中、帰宅する。
 明後日には、川崎、四日市、横浜から家族全員がやってくる。啓樹も

 「リンちゃんとラブラブ」

 と公言する関係にある瑛汰もやってくる。リンも楽しんでくれるに違いない。

 

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