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  2010年7月25日 お大事に

 先週末に我が家に遊びに来たSさんから音沙汰がなかった。
 ふむ、昼は「しみずや」で、夜は「こんどう」でごちそうし、黒川ハムまで案内してベーコンを買わせ、松井ニット技研へお連れして娘さんへの土産と引き合わせた。すっかりリラックスしたのか、彼は夜遅くまで我が家で酒を飲み、朝は、なんとご飯をおかわりまでして食べていった。

 なのに、音沙汰なし?
 
 ま、世の中には恩知らずがいる。感性のどこかに欠陥があるのであろう。どんな恩義を受けようと、後ろ足で砂をかけて去っていく人物は沢山いる。
 実に腹立たしいことである。

 おい、君! 君は私のことを、いったい何だと思ってるんだ! 
 単なる召使いか?
 財布を持った鴨か?

 と怒鳴りつけたくなる衝動に駆られることが時たまある。
 そんなときは、

 「俺もどこかで、誰かに同じことをしちゃった?」

 と冷静に考える。そういえば、と思いつくことが後から後から出てくる。
 まっ、人生そんなものか。相身互いの人生よ。怒ってみても仕方がないではないか。思考がそこまで行き着けば心は安らぐ。
 それでも、ザワザワとした波で心で揺れることはあるが……。
 
 そのSさんから今日、メールが来た。やっと来たか。

 「帰りは、下りの高速の渋滞を横目に、とても快適に帰りました(笑)。ベーコンも家族には好評でした。かなり塩気が強いので、野菜炒めにはこれだけで、塩は要りませんね。ある意味、他のベーコンとの違いは、この塩気でしょうか。調味料を使いたい人には確かに塩気の多すぎるベーコンは逆にNOかもしれません。万能なベーコンではありますね。マフラーは、この暑い気候ではピンこないようですが、気に入ってくれたようです」

 礼状である。ふむふむ、書くのが遅れただけか。決して礼儀知らずではなかった。よしとせねばなるまい。
 と思いつつ、先を読んでびっくりした。

 「今週は会社を休んで病院通いをしていました。突然の血尿(大出血)を起こし、自力排尿できなくなって救急に駆け込みました。悲惨な処置を一晩行い、事なきを得ましたが、その後のCT検査で左の腎臓が完全にアウトになっているのが分かりました。腎臓の場合は90%が悪性腫瘍(癌)で摘出が最良の治療のようです。温存治療もあるようですが、これは最後の腎臓に腫瘍ができた場合のようで、2つあるうちの一つは摘出になるようです。大きさも限界に達しているため、8月中に手術をするとは思いますが、現在、都内にある病院に移って検査しようと思っています」

 いやはや。
 そんなでは、メールなんか書けないよなあ。にしても、我が家から戻ってすぐに病気が分かるとは。
 我が家に来て、大量に酒を飲んで、朝飯をおかわりしたことが早期発見につながった。と考えれば救われる。でも、腎臓摘出とは。
 確か彼は51歳。私よりずっと若いんだけどなあ。彼の手術が無事に済み、健康を回復することを祈る。そして私は、彼より遙かに年上であることを自覚しながら暮らすしかない。

 
 いや、そうでもないのかも、という出来事が、前日の土曜日にあった。
 この日、私は、この日誌にも数回登場した桐生市の偉いさんに誘われて、お祭りの打ち上げに参加した。

 「だって、俺の住んでるところと町内が違うじゃない。俺がそんなところに参加するわけにはいかんでしょう」

 という私に、彼は

 「大丈夫よ。私がいっとくから」

 と強引に私を誘ったのである。
 そこまで愛されてしまったのなら仕方がない。ここは、私に懸想する人に従うしかない。別の町の祭りの打ち上げに飛び入り参加するのだ。日本酒を1本ぶら下げて行った。

 会場は、高校野球で名が高い桐生第一高校のそばの広場である。そこにテントが張られ、4、50人の老若男女がビールにジュース、焼きそばに焼き鳥、ポテトフライ、冷や奴などで和やかに談笑していた。彼は、入り口で待っていた。

 「日本酒ぶら下げてきたんだけど」

 「えーっ、いらなかったのに。持って帰りなよ」

 「せっかく持ってきたんだから、持って帰るのは面倒だよ。みんなで飲んでもらえばそれでいいんだから」

 「そう? こんないい酒、もったいないけどなあ……」


 そういいながら彼は日本酒を受け取り、世話役に渡してくれた。

 「ほら、この人、私の友だちの安堂さん。日本酒を持ってきて切れたよ。いい酒だから、変なのに飲ませちゃダメよ」

 受け取った世話役さんは、ひょっとしたら耳が遠かったのかも知れない。彼の顔をのぞき込み、ついで私の顔をのぞき込んで、彼に向かってボソッといった。

 「こちら、息子さん?

 念のためにいっておく。彼は私と同じ1949年の生まれである。早生まれのため、学年は1つ上ではある。だが、5月生まれの私より、ほんの数ヶ月早くこの世に出ただけだ。

 彼は、数ヶ月年下の私の父親と見られた。
 私は数ヶ月年上の彼の息子に見られた。
 こういう時は、乗るしかない。

 「はい、オヤジがいつもお世話になってます。今日はオヤジに言われて飲ませてもらいに来ました」


 まあ、外見に関しては、私はいくつもの武勇伝がある。

 休日、息子と東京を歩いていて知人にあった。数日後、その知人がいった。

 「この間一緒歩いてたのは弟さん?


 ある日、長女と車を見に行った。出てきた営業マンがいった。

 「奥様、試乗されてみてはいかがですか?」

 ブッと膨れた娘を見て、営業マンは失言に気がついたのであろう。言い直した。

 「失礼しました。妹さんでしたか」

 そのディーラーから車を買わなかったのはいうまでもない。

 でもなあ。あれは私がもっと若いときで、髪は染めなくても真っ黒だったし、顔にシミもなかったし。
 いまは、染めるのもやめたから髪の前の方は真っ白で、よく見ると顔にシミも浮いている。それなのに、いわれたのだ。

 「弟さん?」

 老いとは何だろう?
 私は老いないのか?
 私が老いを自覚し、周りも置いた人と見るまで、あと何十年かかるんだ?

 雷雨に襲われながらテントの中で、真っ黒な空を断ち割る稲妻を見ながら酒を飲み、そんなことを考えた。
 私の頬、緩んでたかもしれないなあ。

 

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