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 2011年3月10日 ヘア

 といっても、再び週刊現代で復活したらしい(というのは、目にしていないからである)ヘアヌードのことではない。

 そうそう、あのへーヌードというやつ、かつては私も人並みに鑑賞する機会があったが、目にするたびに苛立ちに捕らわれたものだった。
 どうして、あのような場所でヌードを公開される女性たちは、長方形にカットした海苔巻き用の海苔を、男の劣情を最大に刺激する一場所に貼り付けているのか? あれではつや消しではないか? ヘアとは、もっとふっくらと、モヤモヤと、艶やかに生えそろっているものではないか?

 いや、私だってその理由を知らぬ訳ではない。諸悪の根源はハイレグの水着であることぐらい、とうの昔に気がついておる。ヘアが自然な状態でハイレグを身につけると、はみ出すヘアがある。だから刈り揃えた結果、海苔巻きの海苔になってしまったことは理解できる。
 だが、元々隠すために切りそろえた結果、海苔貼り付け状態になったのだ。それなのに、隠す部分であったものを人目にさらすことはなかろう。あれでは劣情が刺激されない。ケタケタと笑いたくなる
 ねえ、せっかく口説き落とした美女の下着をはぎ取ったら、海苔が姿を現したら、脱力感に捕らわれて笑うしかないではないか?

 いや、今日のヘアは、正当なヘアである。頭髪のことだ。

 昨日、ヘアカットにいってきた。

 「ねえ、だったら、俺の髪の毛、デザインしてくれる?」

 そんな会話を交わしたのは、桐生市内の居酒屋で、3週間ほど前のことだ。
 ふとしたきっかけで、床屋さんと知り合った。彼が、私と酒を飲みたいという。自慢すると、私は、酒に誘われて断ったことがほとんどない。今回も、2つ返事で引き受けた。

 で、居酒屋で飲んでいると、彼は原宿でヘアデザイナーをやっていたという。

 「えっ、ひょっとしてカリスマ美容師の一人だった?」

 当然の質問を投げかけた。

 「いや、あいつらは俺たちが教えた世代で、いってみれば、私はカリスマ美容師の師、ってところですね」

 カリスマ美容師の先生。それはすてきではないか。こんな会話があったから、冒頭の依頼が口をついて出た。

 「ねえ、だったら、俺の髪の毛、デザインしてくれる?」

 って。

 彼はいった。

 「ああ、いいですよ。俺がやったら、ずっと若く見えるようになりますって」

 今以上に若く見える。そうか、彼の手に私の頭髪を委ねたら、私は20代、少なくとも30代に見えるようなるのか。それは、何かと好都合である。

 「俺、行くわ」

 ヘアをデザインするには、ヘアが多少伸びた方がいい。デザインの自由度が増す。というわけで、横の毛が耳にかぶるほど伸びるのを待って、昨日、彼の店に行った。

 「任せる。勝手にやって」

 「分かりました」


 短い会話のあと、彼は縦横無尽にハサミを入れ始めた。バッサバッサという感じで髪が切り落とされる。

 「いい髪の毛ですねえ。この髪質なら、絶対にはげないですよ。俺の友だちなんか、30過ぎたころから寂しくなって、毛を植えてましたもん」

 へーっ、髪を植えるって、1本いくらぐらいするの?

 「250円ですって」

  えっ、人間には10万本の髪の毛がある。何、2500万円も使って頭髪を取り戻し立ってか?

 「まさか。とっぺんの方だけですよ。あいつ、カッパはげだったから。それでも300万円ぐらいかかったっていってたなあ」

 300万円ねえ。それほどまでに失われた髪の毛とは愛おしいものなのか?

 「でも、植毛しても持ちませんね。3年たったら全部抜けましたもん」

 1年間100万円かけて手に入れる自己満足か。

 という会話を交わしている間も、わが頭髪はバッサバッサと刈り込まれてい行く。

 「後ろの感じ、鏡で見ます?」

 見ません、すべてお任せです。勝手にやってちょうだい。

 刈り終わって洗髪し、最後の仕上げが始まった。ドライヤーの熱風を吹き付けながら、彼は盛んに頭髪を逆立てていく。

 「えっ、髪の毛を立てるの? まさかスプレーで固めて立ったままにする?」

 「いえいえ、まず髪の毛を伸ばしておいた方がボリュームが出るものですから」

 そのうち、仕上がった。両サイドは短く刈り込まれ、上は長くなっている。しかも、やっぱり部分的に髪の毛が立っている。

 「はい、お疲れ様でした。如何です? ずいぶん若返ったと思いますが」

 ……。

 こんなヘアスタイル、初めてである。これで若くなったの? そういえば、医者に止められて散歩をしていない最近の私は、心なしか全身がふっくらしてきている。
 両サイドを短く刈り込んだヘアスタイルは、頬の膨らみを強調しているようにも思える。

 「いやあ、ずいぶんすっきりしましたよ」

 という彼の声を背に受けながら店を出た。俺、本当に若く見えるようになったの?

 店を出て、数人の知り合いと会った。夜は、誘う人があって酒まで飲みに出た。
 なのに、誰も

 「安堂さん、どうしたの? ずいぶん若くなっちゃって」

 などとはいわない。それだけでなく、私が床屋に行ったことに気がついた人物も皆無である。

 まあ、いいさ。男の頭髪なんて、頭にちゃんと張り付いていて、日常生活の邪魔にならない程度に刈り込まれていればいいのである。誰も何もいわないということは、誰にも違和感なく受け入れられる髪型であるということで、めでたいではないか!

 だけど、何の反応もないって、ちょっぴり寂しくはないか?

 以上が、我がちょっとした冒険の総括でありました。

 

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