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 2012年4月1日 新年度

 今日は1年で1日だけ、嘘をつくことが公式に認められている日である。このような日を設けた先人の知性を大いに評価する。

 建前の世界では、嘘は排除すべきものとされる。サクラの木を切り倒したジョージ・ワシントン少年が、正直に父親に自らの罪を告白する。そんな「嘘」の話を通じて、我々は人生から嘘を排除すべきだと教え込まれた世代である。 
 だが、嘘の話を元にして正直の大切さを教え込もうと思ったのは誰なのか? 酸いも甘いも噛みしめた人生のベテランから見れば、嘘はなくてはならないものである。ワシントンの話を捏造した奴は、我々のサイドにいて、いつかはみんなが嘘の効用に気がつくように話を作ったのか? それとも、嘘の話を通じてでも正直さの大切さをすり込まねばと、思い込んだ根っからの嘘つきなのか?

 ま、日頃から嘘の必要性を称揚している私には、エイプリル・フールなどどうでもいい。必要があれば、5月22日にも、8月21日にも嘘をつく。

 だが、今日書くのは、本当の話だ。

 昨日=3月31日、私は横浜に向かった。
 瑛汰との約束があった。「長靴をはいた猫」を映画館に見に行くことである。最初は、瑛汰の家族が桐生まで遊びに来て、私が瑛汰を連れて映画館に行けばいいと思っていた。ところが、なかなか来ない。だから

 「瑛汰と約束したもんな。ボスが横浜に行くよ」

 という次第であった。

 前日の30日、瑛汰の母である次女が熱を出したという。たまたま旦那の仕事が休みで、旦那は瑛汰と璃子を連れて実家に行った。その間、次女は寝るという。寝て休息を取れば熱も下がると考えたらしい。

 「医者に行けばいいのに」

 と考えたが、30を過ぎた娘をリモートコントロールできるはずもない。

 金曜日は飲み会があった。飲んで自宅に戻ると、

 「熱が下がらないらしいの」

 と妻女殿が言う。

 「じゃあ、横浜行きはやめにするか?」

 体調が悪くて余分な食客を迎えるのはしんどいだろう。

 「そうじゃなくて、来て欲しいらしいのよ」

 ということは、相当にへたり込んでいると言うことなのか。瑛汰と璃子を任されるということか?

 昨日、7時45分に桐生を出て、9時40分頃横浜の自宅に着いた。

 「ボス、来たぞ−」

 といいながら2階にあがった。あがってギョッとした。
 居間は、瑛汰と璃子のおもちゃが散乱している。ふと見ると、璃子はサンドイッチにかぶりついている。瑛汰は悄然としている。2人ともパジャマのままである。
 次女の寝室に足を運ぶと、へたり込むどころではない。私の顔を見ても体を起こせないほど衰弱している。

 「これはいかん」

 まず、瑛汰に

 「朝御飯、食べたか?」

 と聞いた。食べたという。璃子はサンドイッチにかじりついていたから、まあ、いいだろう。まず2人に着替えをさせ、次女にも着替えさせて医者に連れ込んだ。

 瑛汰、璃子と3人、自宅で待った。
 瑛汰は相変わらずである。

 「ボス、遊ぼ!」

 「何をする?」

 「戦いごっこ」

 「璃子ちゃんがいるから危ないだろう」

 「璃子もね、戦いごっこ好きなんだよ」


 確かに、2人で刀を持ち、斬り合っている。
 母親が死にそうな顔をしているのに、と思うのは大人の都合である。瑛汰も璃子も、まだ、自分の世界だけで生きる年代なのだ。

 次女には

 「とにかく、医者から戻ったら全員桐生に連れて行くから」

 といって医者に送った。
 次女は

 「インフルエンザだったら行かないから」

 といって医者の門をくぐった。我が妻女殿は膠原病で免疫抑制剤を飲み続けている。おかげで感染症に弱いことを知っての発言である。
 が、この状態で放っては置けないではないか? 妻女殿に連絡を取ると、

 「インフルエンザでも、一室に監禁するからとにかく連れてきて」

 という。
 瑛汰は、桐生に行きたくて仕方がない。母に

 「インフルエンザなら行かないから」

 といわれて、

 「インフルエンザじゃなければいいのになあ」

 と何度も繰り返す。
 璃子は……、ニコニコして、

 「パン、パン」

 という。カウンターにあったパンを渡すと、これにもむしゃぶりついた。食欲旺盛である。ホッとする。

 次女から連絡があったのは12時を過ぎていた。とりあえず、瑛汰と璃子を車に積み込み、迎えに行く。次女を車に乗せて

 「どうだった?」

 と聞くと、

 「インフルエンザじゃなかったけど、肺炎の一歩手前だって」

 瑛汰が

 「やったー、ボスのところに行ける!」

 と歓声を上げた。訳が分かってかどうか、璃子も歓声に唱和した。


 旅の支度を調えさせ、荷物を車に積み込み、とりあえず出発したのは午後1時近かった。全員、昼食はまだである。

 「おまえ、飯、食えるか?」

 「何にも食べられない」

 「子供の昼飯、どうする?」

 「コンビニのおにぎりでいいよ」


 というわけで、車の中で子供たちにコンビニのおにぎりを食べさせ、ひたすら桐生に向かった。惨め、ではある。が、一時的な惨めさは、この際無視しなければならない。全員餓死せずに、桐生にたどり着くのがサイダの課題である。


 というのが昨日であった。

 昨夜は瑛汰を寝かしつけながら、私も午後9時過ぎには寝込んでしまった。おかげで、今朝は5時半に目が覚め、薄暗い中、電気をつけて新聞を読み始めた。瑛汰が6時過ぎに起きてきた。6時半頃、2階の部屋で璃子が泣き出した。泣き止まないので、

 「次女は、まだ子供の面倒を見る体調ではないのか?」

 と思いながら璃子を連れに行った。璃子はベッドで泣いている。その横に寝ているはずの次女が、愛娘の泣き声に反応して体を動かした形跡がない。ギョッとした。おいおい、璃子のおかあさん、ひょっとして死んじゃった?

 「ここにいるわよ」 

 トイレから声がした。昨日はなかった生気がうかがえる声である。薬が効いたらしい。
 というわけで難所は越えた、と思う。あとは、完全回復までにどれだけ時間がかかるかである。

 なので、今日は瑛汰との約束を果たした。
 まず、伊勢崎のスマークまで行き、長靴猫を見る。終わって書店に行き、瑛汰が欲しいという本を9冊買う。璃子の本もあわせて2冊。璃子の遊びに紙粘土。瑛汰の秘密基地作りに、水性の大型フェルトペンを4本。
 スマークを出てケーズデンキDVDケースを3つ。これも瑛汰の要求である。で、しみずやで瑛汰とうどん。

 戻ると、次女の生気はさらに増していた。まだ下痢があるというが、体は動いている。もう心配なかろう。


 しかし、である。
 璃子は、ひょっとしたら良い男を見抜く本能があるのかも知れない。
 年末に来たときは一緒に風呂に入るのもいやがったのに、昨日から私にべったりである。駆け寄ってきて足に抱きつく。抱き上げると頬ずりしてくる。手を引いて外に誘い出す。離れて座っていると、

 「ねえ、ねえ」

 と腕を絡ませてくる。
 いい男を見抜く目と同時に、男を虜にするすべも、生まれつき持っているのかも知れない。
 末恐ろしい1歳女児である。

 ボスは楽しみにしているからな!

 我が家は、なかなか大変な、だが、何となく楽しい新年度入りであった。
 ドジョウ内閣は、どんな思いで新年度を迎えたのかねえ。

 

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