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 2012年12月4日 総選挙

 朝方、市内を車で走っていたら、一角に人だかりができていた。何事ならん、と目を懲らすと、政党名を書き、ついでに候補者名も掲示した選挙カーが止まっていた。

 「あ、今日から選挙なんだ」

 民主主義と呼ばれる体制の元で惰眠を貪っている私にも、多少の野次馬根性はある。少し先に車を止めて人だかりのそばまで歩いてみた。
 いい歳したオッサンが、選挙カーから引き出されたマイクを代わる代わる持ち、勝手なことをくっちゃべっていた。かなりのボリュームだから、ご近所迷惑であるに違いない。みんな苦情も言わずに我慢しているのが不思議だ。間違いない、これは、出陣式とかいうものであるらしい。

 と気がついて、周りを見てみた。出陣式というには、寂しい限りである。候補者と、その連れ合いが並んで立っている。おっちゃん、何となく足元がおぼつかないけど、選挙なんかやって、命の方は大丈夫?
 候補者を担ぎ出した面々が雁首を揃えている。運動員だろう、そろいのジャンパーを身につけた男女が並んでいる。哀しいことに、この人たちも、オッちゃんとおばちゃんばかりだ。若い娘なんてどこにもいない。

 ほかにいるのは、多分マスコミの連中だろう。三脚に取り付けたビデオカメラを操作しているのはテレビに違いない。肩からカメラをぶら下げているのは新聞か。

 「と、この人たちは仕事でここに来ているのであろう。朝早くから、といってももう10時過ぎだが、ご苦労なことである。では、仕事と関係なく、とにかく応援しようと来ている人たちは?」

 数えてみた。最初は8人しかいなかった。演説が進むにつれて少しずつ増えはしたが、それでも最後まで私の指の数は越えなかった。これなら、算数など勉強しなくても数えることができる。

 「たった、こんだけ?」

 そう、たったそれだけだった。しかも、皆じっちゃんばかりだった。

 やがて、候補者は選挙カーに乗り込み、その場を離れた。その際、まばらな拍手が起きた。
 これが選挙戦? そう、これが選挙戦。こんなまばらな拍手の上に築かれる民主主義って、いったい何だろう? じっちゃんのまばらな拍手の上に築かれる民主主義って、何だろう?

 まあ、確かに、関心の持ちようがない選挙ではあるが。


 昨日、我が愛器、Martin 00028ECを調整に出した。
 何となく弾きにくいとは、手元に来たときから感じていた。ネック(いってみれば、ギターの首、ですな)のボディから近い方を弾こうとすると、弦がネックから離れすぎている感じがつきまとった。弦がネックから離れすぎていると、押さえにくい。

 出した先は、市内の楽器屋さんである。買った店ではない。
 1か月ほど前、散歩していてふと立ち寄った。その店主と話していて、すっかり好きになった。
 オタク、といえるかも知れない。が、このオタク、ただ者ではない。若かりし時、Paul McCrtneyのベースに魅せられ、ベーシストを目指した。そこからギター全般に関心が広がり、一時は100本を越すギターを所有した。店にかけてある1本は、MartinOM28(だったと思う)だが、ただの28ではない。

 「アメリカのMartin特注したやつです」

 特別注文。なんでも、普通に売られているヤツは、Martinのロゴが横に入っている。でも、どうしても縦ロゴが欲しくなり、ついでにいろいろと注文して出来上がった1本だ。

 「へー、特注品なの。100万円ぐらいした?」

 「まあ、その程度は」

 特注のギターに100万円。唖然とする私に、彼は言葉を継いだ。

 「だいたいね、ギターって木で作るでしょ。で、メーカーは木を1本買う。そうすると、その木を上から下まで使わないと採算が取れないわけです。ところが、木の下の方は固い。上の方は柔らかい。木1本でギターが10台できるとしたら。固すぎる部分を使ったギターと、柔らかすぎる木を使ったギターができてしまう。これを同じ値段で売るわけです。でも、10台のうち、本当に音がいいのは1台だけ。まあまあ、というのが2台あるかないか。残りの7台はどうしようもない音しかでないわけです」

 なるほど、理屈は合っている。

 「せっかく沢山のお金を出してギターを買おうとするのに、どうして安売り店で買っちゃうんでしょうね。そんなところに回ってくるのは、どうしようもない7台に決まってるじゃないですか。まあまあの2台や、これしかないという1台は、絶対に安くなりません。私、うちの店でギターを買ってくれるお客さんには、いいギターしか売りたくないので、依頼を受けるとメーカーの倉庫に見に行くんです」

 ……。俺の買ったMartin安く買えて良かったなあと思ってるんだけど……。

 オタクではある。が、ギターに関する知識は並ではない。すっかり感心した私は、ギターの調整を依頼してみようと思い立ったのである。

 ケースから出したギターを見た彼はいった。

 「お、ほら、ネックがよじれてますよ」

 ……。

 「確かに、弦高も高いですね。これじゃあまともに弾けないわ」

 ……。
 音を出していった。

 「うーん、Gの音が出てない。ね、ほら、どこでGの音を出してもボスッという音になるでしょ。これは、大きな音を出し続けると出るようになりますけどね」

 ……。

 「それに、いやだな、これ。音が前に出てこないでしょ。なんか、ギターの中とその近くだけでしか鳴っていない感じ、しません? Martinって、もっと音が前に出てくれるんですよね。でもね、これはネックのそりとねじれを治して、弦高を調整すれば、もっと前に出てくれるようになりますよ、きっと」

 ……。

 「いやー、その、安く買ったので、7台のうちの1台なんだろうね、きっと」

 「いや、だけど、木目は綺麗だし、そこまでのこともないんじゃないですか?」

 オタクのくせに、客の気をそらさないテクニックだけは身につけている。流石商売人である。

 そのギター、明日仕上がる。調整が済んだMartin 00028ECで私は、Eric Claptonになる、かもしれない。いずれにしろ、夢は見続けなければ実現しないのだから。

 気に入ったら、もう1台のD-41も調整を頼もう、っと。でも、調整の前に何といわれるのか……。

 

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