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 2014年5月6日 禍福は

 糾える縄の如し

 とは、中国の教えである。良いことは悪いことをもたらし、悪事は福をもたらす。

 絶世の美女を口説き落とし、皆の羨望を一身に集めた。ところが、いざベッドに入ってみるとこれが最悪。おまけに金遣いは荒いわ、いびきはかくわ、料理はヘタだわ、挙げ句の果ては頭の中身はすっからかんときた。
 これはいかんと逃げにかかると

 「子供ができたんだけど」

 という話をすると、相手はいった。

 「そりゃあ、大変なことでしたな」

 話は最後まで聞け、って。

 そりゃあ俺も絶望したさ。俺の人生いったいどうなる? この女との暮らしが死ぬまで続くってか?
 だから必死に考えた。俺の人生を救うにはどうしたらいいのだろう? そもそも人生って、何なんだ?
 考えに考えて、ほんの少しばかり

 「ン? ひょっとしたら、これか?」

 ってな固まりに行き着いたような気がしたので、出版社に務めている友人に、酒飲み話でその一部を開示したんだ。そしたら、そいつが言うじゃないか。

 「おまえ、それ、滅茶苦茶すごいよ。そんな驚天動地の自己救出策をあみ出したヤツは、これまでいない。お前、本を書かないか? 同じ悩みの持ち主っていっぱいいるから、ベストセラー疑いなしだぜ」

 いわれるままに書いてみた。もちろん、そんな本が売れるなんて信じられなかったが、まあ、いまや妻という名でふんぞり返っているあいつに、

 「仕事だから」

 と断って1人キーボードを叩く時間は、救いでもあった。
 で、本が出た。どうしたわけか、これが売れたんだなあ。年間売上高ダントツのトップが3年も続いて、だから続編、続々編と書き繋いで、いまや金は唸るほどある。
 で、ベストセラー作家ともなれば、缶が唸るほどあるとなれば、女なんて向こうからパンツ脱ぎながらやってくる。腐るほど来るから夜が忙しくってさ。で、ありがたいことに自宅には帰る暇がなく、我が世の春を謳歌してるって訳よ。

 ね、話は最後まで聞けって。

 何やら、ソクラテス(彼は悪妻がいたために哲学者になったといわれる)と、先日死んだ、日本経済新聞に、堂々とポルノ小説を連載して大作家になったオヤジを足して2で割ったような話になったが、まあ、それが

 禍福は糾える縄の如し

 の意味である。
 ついでに書けば、解説のために書いた上の文章はすべてフィクションであるから、「驚天動地の自己救出策とは何か」なんて問い合わせられても困る。そんなも、ありゃしないのである。

 
 で、私にもそれがやってきた。
 いや、女ではない。それに、残念ながらベストセラーを出したこともないし、これから書けるとも思わない。話はずっと小さいのだが、それでも

 禍福は糾える縄の如し

 が私に起きた。

 
 この日誌を書き継ぐためのソフト、Dreamweaverが動かなくなり、専門家のご出馬を仰いで復旧したことはご報告した。
 わが白馬の騎士が我が家に滞留したのは3時間ほどである。作業が一段落したころ、私はお伺いを立ててみた。なにしろ、彼は私を窮地から救ってくれた人なのである。この方の知識に限界があろうはずがない。

 「いや、実は我が家ではネットワークオーディオを入れて、音の良さには十分すぎるほど満足しているのですが、操作性が極めて悪くて困ってるんです」

 と切り出して相談したのは、NASに蓄積した音楽データが、私の希望通りに並んでくれないことだった。

 一度書いた記憶があるが、お忘れだといけないのでもう一度書く。

 ネットワークプレーヤーは、基本的にiPadで操作する。iPadで電源を入れると、どのソースを利用するか選択する画面が出る。ここでNASに行き着くためには、「Music Server」にタッチする。すると、NASが現れ、これをタッチすると

 ・フォルダー
 ・ミュージック
 ・フォト
 ・ビデオ


 の4つから選択せよとの画面に移る。音楽を聴くのだから、当然、フォルダーか、ミュージックだ。

 で、フォルダーを選ぶ。そのあと2度操作すると、私がNAS上に作ったフォルダーが現れ、これがいいというフォルダーにタッチすると、アルバムが姿を現す。私の作ったフォルダー階層が、そのまま反映されている。
 ここまでは言うことない。理想通りに物事が進んでいる。それが突然絶望に変わるのは、アルバム名のアイコンをタッチした後である。
 ずらりと、そのアルバムに入っている曲が並ぶ。だが、一見して変なのだ。これ、アルバムに入っている曲順と違う!

 敬愛するThe Beatlesに、ポップスの歴史を変えた名盤の誉れ高い「Sgt Peppers Lonely Hearts Club Band」というアルバムがある。全編がひとつのショーとして構成され、だから幕開けの曲で始まり、最後は

 「次も見に来てね」

 というお別れソングで幕を閉じる。だからこれは、曲順が変わってはならない。
 ところがなのだ。上述した順序でこのアルバムを再生すると、1曲目は

 A Day In The Life

 である。これ、本来はアンコールの曲。つまり、舞台の最後に演奏される曲である。そして2曲目は

 Being For The Benefit Of Mr Kite!

 3曲目は

 Fixing A Hole

 何のことはない。すべての曲がアルファベット順に再生されるのだ。…………。

 では、と、操作手順を前に戻ってフォルダの代わりにミュージックから入り、さらに「アルバム」を選択すると、すべてのアルバムがアルファベット順に並ぶ。私が作ったフォルダなんて、見向きもされない。ただ、ここからアルバムを再生すると、中の曲順はオリジナルと同じなのが取り柄である、

 どうやっても、そうしかならない。仕方なく、私は「ミュージック」—「アルバム」の順で操作し、聞きたいアルバムを選んでいた。
 しかし、選びにくい。7、800枚あるアルバムから、アルバム名だけで聞きたいものを選び出すのは至難の業。というか、アルバム名なんて記憶に遠いのが実情であるから、いったどのアルバムを再生するのがいいか、迷いに迷うのだ。

 と、白馬の騎士に語った。

 「ああ、それはTagの問題ですね。うん、Tagを書き換えてやればいいんです」

 よくわからないが、Tagとは、アルバム、その中に入っている曲それぞれにくっついている名札みたいなものである。CDメーカーによって、このタグに何を書き込むかがバラバラで、なかでも楽曲には楽曲名しか書き込まれていないことがほとんどなので、NASという名のコンピューターは仕方なくアルファベット順で並べる。

 「だから、楽曲名のタグに、数字を入れてやればいいんです。01、02,03,って。そうすればその順に並びますから」

 我がiMacには、Tagを操作するソフトはすでにインストール済みである。その名を「Tag」という。

 「じゃあ、このソフトを使えばいいんですか」

 「ああ、そうですね」

 「でも、ここで出て来るどの情報を書き換えればいいんですか?」

 「えーっと、ほらここですよ、ここの頭に数字を入れればいい。だけどこれ、1曲ずつしか書き換えられないへたれソフトですね。もっといいソフトがあると思いますよ。見つかったらお知らせします」


 白馬の騎士は、そう言い置いて戻っていった。

 だが、彼がよりよいソフトを見つけてくれるまで待つ私ではない。今日、私はTagを起動し、いわれたとおり曲名の頭に01、02,03……と数字を打ち込んでみた。そしてiPadをのぞき込むと……、

 おお、フォルダから入っても、見事に曲順がオリジナル通りに並んでいる!

 ということで、昼過ぎから作業を続けた。大変な作業である。この時間までに書き換えが完成したのはアルファベット順でCまで。アルバム数で75枚ほどである。まだ全体の10分の1にも達していない。そりゃそうだ。1枚に10曲はいっていたとして、すでに750の曲名を書き換えているのだから時間はかかるのだ。
 明日以降、膨大な作業が私を待つ。

 が、いいではないか。解決策が分かれば、あとは地道に作業を続ければよい。明けない夜はない。いずれはすべてのアルバムのタグの書き換えが終わる。音楽再生環境が飛躍的の良くなる日は近いのである。

 日誌が書き継げないという最悪の事態が、でも、ネットワークオーディオの課題の解決につながった。まさに

 禍福は糾える縄の如し

 を実感しつつ、でも作業で疲れた1日であった。

 

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