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 2016年3月8日 確定申告

 かつて読んだ本、無論、何という本であったかは忘却のかなただが、いずれにしてもその本によると、納税は主権者意識を育むのだそうだ。

 米国は1775年、英国に独立戦争を仕掛け、1783年に独立を勝ち取った。戦いのきっかけは英国による課税の強化であった。

 「おいおい、確かに俺たちは植民地の住人だよ。だから議会には俺たちの代表はひとりも出てない。でもさ、俺たちの立場を主張するヤツが1人もいない議会で、突然税金を重くするって決めたっていうが、俺たちには寝耳に水だよ。何で俺たちが従わなくちゃいかん?」

 というのが、独立戦争の原因だったといわれている。

 そりゃまあ、国というやつを動かすには金がかかるだろう。だから、税金を取るなとはいわん。だが、一言の挨拶もなしに、俺たちの話を聞くこともなしに税金を上げるって、そりゃあひどいんじゃねえか?

 そうやって憤った連中が銃をとり、結局のところ米国の独立を勝ち取った。多分、そのあたりに、納税が主権者意識を育てるのだという論拠があるのだろう。

 まあ、それも分からんわけではない。確かに、税金なんてない方がいいが、あるのなら、納得して払いたい物である。

 「だから」

 と、私が読んだ多くの本は書いていた。

 「源泉徴収制度は、納税者意識をなくします。結局、源泉徴収されているサラリーマンの関心の対象は手取りだけ。税金にいくら取られたかは意識しない。ここからは納税者意識は生まれない。だから、日本には政治の主権者は自分であるという意識が育たないのです。徴税は須く確定申告制にすべきです。すべての納税者が年に1度、納税者として国家権力と向かい合う。そうして重税感を身に染み込ませれば、税金の使い方を注視する主権者が育ちます」

 という論理は、机上の論としては正しい。が、現実世界で通用する正しさを持ち合わせているか?

 今日、確定申告に行ってきた。源泉徴収で税金を取られていた現役時代と違い、会社から来る涙金程度の給料に加え、企業年金、公的年金が入ってくる私のような立場にある人間は、毎年1度、確定申告をしなければならないのである。
 つまり、私は毎年1度、税を間において、国家権力と対峙する。それもすでに6回目である。おかげで私は、立派な主権者に育ったであろうか?

 確定申告は税務署に出かけて行う。今年は、自宅のパソコンでe-Taxなるものに挑戦しようと思ったのだが、国税庁が用意したホームページの使い勝手がすこぶる付きで悪い。何をどうしたら確定申告の書類が作れるのか、さっぱりわからない。

 で、諦めて今朝、税務署に出かけた。持参したのは、収入を明らかにする書類一式、昨年1年間に使った医療費の領収書、それをまとめたExcel表、生命保険など控除対象の書類一式である。

 税務署に着き、列に並ぶ。私の順がくると税務署の係員とともに机の前に立ち(椅子がないので座れない)、書類を点検される。署名を求められ、数字の書き込みを命じられる。
 それが終わると再び列に並び、パソコン入力の番を待つ。

 「はい。次の方」

 呼ばれてパソコンの前に座る。横に就くのは、多分期間限定のアルバイトの女性だ。花粉症なのか、マスク姿である。色気も面白みもない。あ、そうか、ここは税金を取られる場所なんだ。

 「はい、ではここをクリックして下さい」

 「この欄に、この数字を入力して、ここにはあなたの会社名と所在地を。ああ、この欄にはこの数字ですね」

 いわれるがままにパソコンのキーボードを叩き、マウスでクリックを繰り返す。

 「はい、入力が終わりました」

 といった彼女は手を挙げた。

 「確認を御願いします」

 やって来たのは、多分税務署の職員に成り立ての若いお兄ちゃんであった。

 「はい、これでいいですね。では、この書類を持ってあのデスクに行ってください」

 このような流れ作業で、

 「はい、では1万900円を追加納税していただきます。振り込まれますか? ここで払って行かれますか?」

 私はその場出払って戻ってきた。
 払い終わって、さて、私は主権者意識で胸が張り裂けそうになっただろうか? 何しろ、6回目の確定申告だぞ!

 いや、実のところ、主権者意識などは持ちたくても持てないのが、確定申告という作業である。とにかく、税に関するルールは事細かに決まっている。事細かすぎるから、我々納税者は知る術もない。勢い、確定申告の会場では、税務署員の言いなりである。

 「すみません。ここはどうしたらよろしいでしょうか? こっちに数字を入れるのか、この欄の方がいいのか。それに、この数字は引いていいのでしょうか? それとも、引かない前の数字を入れる?」

 そう、手取り足取り教えてもらわなければ、納税申告ができない。税を取られるのは私の法なのに、税を取り立てる国の下っ端に必死に教う。これで、果たして主権者意識というものが育まれるのだろうか?

 どうも、実感として違うのである。確定申告を6回もやった(サラリーマン時代に2、3回やったから、もうベテランである)体験からいうと、こんなことを何度繰り返しても、己が主権者樽という意識にたどり着けるとはとうてい思えない。国家にいわれるまま、教えを請いながら税金を納めさせていただく身分からは一歩も先に進めるはずがない。

 まあ、それだけ国の制度の作り方が上手いのかも知れないが。

 というわけで、本日は約1時間の労働で、1万900円を取られてしまった私であった。


 それにしても、である。田母神、という右翼の道化が、政治資金流用疑惑の渦中に入った。
 おいおい、あんた、自称右翼だろ? 右翼って、下っ端のチンピラは別として、何よりも既存の規則を重視するのではないのかね? いいルールか悪いルールかはどうでもよくて、ルールであるかぎり遵守しなければならないというのがあなた方の立場ではないのか?

 まあ、あなたの立ち位置が立ち位置だから、検察庁が無理矢理あなたを引きずり下ろすとも考えにくい。とすると、疑惑はかなり信憑性のある疑惑だということになってしまう。

 ねえ、口では秩序秩序といいながら、己の行動だけはフリーにしちまうこんな人は、さて、確定申告で正直に申告しているのかいな? 
 と思ってしまった、確定申告を正直に済ませたばかりの私であった。



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