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 2016年7月8日 おかしい

 これ、変である。おかしい。報じる記事を一読してそう感じた。二読して確信した。

 「よみがえるトキワ荘」

 これは朝日新聞朝刊の記事の見出しだ。ほかの新聞も大同小異だから、ここでは朝日新聞に右代表となっていただく。

 記事によると、それはこういうことである。
 トキワ荘とは、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎ら、後には日本、いや世界を代表する漫画家たちが駆け出し時代に住んでいたアパートである。1952年暮れに上棟式が行われ、1982年11月、老朽化のために解体された。

 そのトキワ荘を東京都豊島区が復元するのだという。記事は建設資金に触れていないが、木造、延べ床面積420uというから4、5000万円か。この建設資金、文章の流れから判断する限り、区が負担する。つまり、税金が注ぎ込まれる。
 東京都は地方交付税を受け取っていないから(多分)、私が納めた税金が使われるわけではない。だから私が憤るいわれは何もないのだが、それでも

 「それ、違うだろう!」

 と豊島区長や区の役人にくってかかりたくなる。

 トキワ荘。ここのたった4畳半の部屋での苦闘で生み出された沢山の漫画を、子供だった私はそうとも知らずに読みふけった。だから、多分私の血肉の一部になっている。
 手塚治虫の作品に至っては、大人になり、子供が大きく育ってからまた新しく買って読み直した。壮大な世界観、歴史観、仏教に根を置く生命観。日本が生み出した世界の至宝の1つであることは間違いない。

 だが、なのだ。
 トキワ荘はすでに解体された。いまは漫画ファンの思い出の中だけにある。手塚治虫の漫画が、藤子不二雄の漫画が、石ノ森章太郎の漫画が読み継がれる限り、思いでの中のトキワ荘は決して老朽化しない。解体されることもない。漫画の聖地は、ファンの記憶の中にすっくと立っているのである。
 それでいいのではないか? いずれは朽ち果てるレプリカを作る必要がどこにある?

 いや、民間事業として再建されるのなら、

 「あ、そうなの。ぜに儲けの手段ね。勝手にしたら。でも、手塚さんたちの精神を汚さないでね」

 といっておけば済む。見物客がいなくてその会社が倒産しようと、私には何の関係もない。

 だが、税金が投入されるとなると話は違う。税金とは、みんなの役に立つものに使うべき金である。トキワ荘のレプリカって、みんなの役に立つか?

 民間は、100円の支出は少なくとも100円、出来れば120円回収できる事業に投じる。税金の使い道を決める役所は、投じた額をまったく回収できないものにも金を使う。道路、公園、学校、生活保護……。そのような金の使い方を正当化するのは、皆の役に立つ、皆が幸せを感じられる社会にする、という目的である。
 トキワ荘のレプリカ。何の役に立つ? 誰が幸せになる? 幸せになるのは、工事を請け負う会社だけではないのか?

 トキワ荘から受け継ぐべきは、夢の実現に心血を注いだ漫画家の卵たちの熱気である。建物ではない。レプリカに熱気を伝える力があるか?

 恥なさい、豊島区長、豊島区の役人。
 恥なさい、心温まるお話としてしか取り上げない朝日新聞をはじめとしたマスメディア。

 そして、怒りなさい、豊島区民。


 おかしい、といえば、私も変なことになってきた。
 なんと、67歳の私が起業するのだそうだ! とりあえずは個人事業として歩き出し、成果が出れば企業化も視野に入れる。
 私の、桐生残留作戦、ということらしい。

 「そうするしかない」

 と断定されたのは、私を桐生に引き止める4人委員会の方々である。

 いやあ、そんなこと考えたこともなかった。親戚筋を見回しても、自営業は母の姉の嫁ぎ先であった化粧品屋さんだけだ。あとはサラリーマン、役人、教師、といったところ。そんな私に、事業家の血が流れているはずがない

 「なんだけど、私に出来ますか?」

 と異を唱えても、

 「そうするしかないのです。みんなで支えますから」

 と即座に受け流されれば、素直に従うしかない。

 「ということは、あれですか。いまはBMWの3シリーズに乗っていますが、数年先には最高級の7シリーズのハンドルを握れるってことですか?」

 冗談半分に聞いてみた。

 「それは、あなたの努力次第です」

 ふむ、それはそうだなあ。
 だけど、いったい何をするの? 本当に私に金が稼げるの?

 何となく急流に押し流される漂流者の心境がわかるようになってきた。

 ここまで切羽詰まれば、なるようになるしかないとは思うが……、本当になれるのか?
 信じようとしても、自分の何を信じていいのか、途方に暮れる私である。



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