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 2016年10月30日 はまる

 このところ、パイプタバコにすっかりはまっている。嗜めば嗜むほど、紙巻きタバコより深い味わいを感じる。そうか、これほど味わい深いものであったか、とパイプに詰めるタバコをあれこれ味わってみて、私に一番適した銘柄を探しているところである。
 いまのお気に入りは

 W・O・LARSEN MELLOE & TASTY

 という銘柄だ。デンマークのタバコである。

 何がそれほど私を惹きつけているのか。

 まず、だ。
 紙巻きタバコは長い間、ハイライトを好んでいた。それを、初期の肺気腫といわれたのをきっかけに、AMERICAN SPIRITに乗り換えた。ニコチン、タールの量がハイライトの半分以下。肺に与えるダメージも少なかろうと思っての決断だった。
 だが、しばらく馴染むと、単に健康上の問題だけでなく、味わいからも乗り換えてよかったと思うに至った。これ、ハイライトより遥かに味がいいのだ。有機栽培のタバコを使い、添加物を一切使わない。燃焼促進剤も入ってないから、時折火が消えたりするが、それを補ってあまりあるほど味が深い。

 それでも、なのだ。パイプタバコは、そのAMERICAN SPIRITよりも、さらに深い味わいがあり、香りも素晴らしい。紙巻きタバコは煙を肺にまで吸い込むが、パイプタバコは吹かすだけ。つまり、煙は口の中にしか入らないのだが、それでも紙巻きタバコ以上の満足を与えてくれる。

 煙を肺に入れなければ肺気腫が進むはずはない。だから、ハイライトよりも、AMERICAN SPIRITよりも肺に優しいはずである。それなのにこの満足感。もう、パイプを手放せそうにない。

 というわけで、私の煙ライフは最近、次のように進む。

 朝食後にAMERICAN SPIRITを1本。
 歯を磨いて顔を洗い、衣服を着替えると、外に出てパイプタバコを楽しむ。一度火をつけると20分から30分は持つので、煙をくゆらせながら読書する。
 昼食後は、直ちに外に出てパイプ。そして、夕方4時前後にも外でパイプ。
 夕食後、AMERICAN SPIRIT。その後、映画を鑑賞しながらAMERICAN SPIRIT

 これだけである。通常はパイプを3回、AMERICAN SPIRITを3本だけだ。
 時折、これにAMERICAN SPIRITが1、2本加わる。パソコンで仕事をしていて外に出るゆとりがない時、あるいは訪問先の企業の事務所で、禁煙ではないといわれても、流石にパイプは控えた方がよかろうと思う時。また、飲み屋でもやっぱりAMERICAN SPIRITに手が伸びる。

 余分のAMERICAN SPIRITは、パイプから煙ををくゆらせるのを遠慮(この私でも、遠慮することがあるのである)した方がよかろうという場所でタバコがほしくなる時に吸うのみである。
 何しろ、パイプタバコの煙は香りが豊かだ。豊かすぎて嫌う人もいる。喫煙者である我が妻女殿も

 「臭い!」

 とおっしゃるほどだ。私にはこの上ない芳香なのだが、故に我が家でも、パイプタバコを味わうのは屋外である。まあ、感じ方は人それぞれだから、ほかの人がいる席では控えざるを得ないのだ。

 こう見てみると、一番たくさん吸う日でも、パイプ3回にAMERICAN SPIRITが6、7本というところか。1日にハイライトを30、40本吸っていた頃に比べて、何と健康的な生活になったことか。

 それはいいのだが、はまればはまったで、新たな悩みも生まれるのが人の常である。
 しばらく前、ネットでパイプの楽しみ方などをググっていた。何事にも先人はいて、私より遥かに前から、遥かに深く、パイプ道に邁進していらっしゃった方が、私のような後進に様々のことを教えて下さるのはネットのメリットではある。だが、新たな知識は新たな悩みの元にもなる。

 パイプにはタバコを詰める部分がある。おおむね木でできているのだが、ために、私のパイプはタバコを詰める穴の周囲が黒く焦げている。まあ、タバコの葉に火をつけなければ吸えないのだし、火をつけるためにはこの穴にライターの炎を近づけねばならない。火は、目の前になるものを区別せず過熱するのである。
 だから

 「周囲が焦げるのは当たり前。パイプでタバコを楽しむとはそのようなものである」

 と、そのサイトを見るまでは信じて疑わなかった。ところが、この先人によると、穴の周囲を焦がすヤツはパイプ愛好者の風上には絶対に置いてはいけないという。穴の周囲は、買ったばかりのように木目がきれいに出ていなければならない。 焦げ目をつけるなどもってのほかである。

 あれまあ、俺、ずいぶん昔に、会社の先輩から巻き上げたダンヒルを1本、Amazonで買った3000円ほどのものを1本、ダンヒルが見つからないので急場しのぎに市内のたばこ屋で買った1900円を1本の計3本持っているけど、どれも穴の周りは焦げてんだけど。そうか、これは恥ずかしいことなのか。

 であれば、対策を講じなければならない。
 まず、これ以上焦がさないよう、火をつける時には細心の注意を払うようになった。
 昂じて先週末、パイプ専用ライターを市内のたばこ屋さんに発注した。2000円ほどだから、たいした出費ではない。
 かくして、これ以上の焦げ目をつけない対策は万全に近づきつつある。

 だけど、だ。焦げちゃったいまのパイプ、どうする?

 ま、私の周りにはパイプ道が分かるような人はいない。だから、穴の周りが焦げたパイプをくわえていても、蔑んだような視線を私に向ける人は皆無である。だが、1人だけ蔑む目線を送るヤツがいる。である。
 何とかならないか、この焦げ。

 というわけで、先日から焦げ目をサンドペーパーで磨き始めた。目が粗いサンドペーパーを使ったら傷だらけになるので、2000番という極細のペーパーである。暇を見つけては、こいつで焦げをゴシゴシこする。細かな黒い粉が出るが、なかなか木地は現れてくれない。よほど深くまで焦げているものと見える。
 それに、だ。ペーパーでこすったのでは塗料(塗ってあるとしての話だが)が剥げるのではないか? そうしたら、色目がほかの部分と違ってきて、よりみすぼらしくなるのではないか?
 が、始めちゃった。それも、一番高価なダンヒル(これ、私が買った訳ではないが、どう見ても一番高かろう。ダンヒルというだけで、ネットで見ると7万円とか10万円とかしているから)から始めちゃった。はてさて、どうなる事やら。一生懸命働いて新しいダンヒルが買えるぐらいのお金を貯めた方がいいのかなあ……。

 趣味は。嗜好は人生を豊かにする。
 確かにそうだが、同時に悩みも増やす。

 そう考えると、人生とは実に味わい豊か、である。



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