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 2016年11月9日 帝国の終末

 米国という帝国の終末が近いと予言したのは、確かエマニュエル・トッドだった。「帝国以後」という本だったと思うが、確かではない。
 それを読んだ時、

 「ははあ、さようなものか。帝国を築いた中国の各王朝だって必ずつぶれたし、ローマ帝国だって終末を迎えた。近年では、太陽の沈まない国といわれた大英帝国だって、いまや欧州の片隅にある島国に過ぎない。米国も同じ運命を辿るのか」

 と思った程度だった。その思いには

 「ホントかね?」

 という疑問がつきまとったことも確かである。

 で、大統領選挙でトランプが勝った。いま、

 「ホントだったんだね」

 とトッドさんの千里眼に敬意を表している。
 だって、世界最強の帝国のトップに、あのような人格低劣な人間が就任する。それも、血筋や縁故でトップが決まる国ならまだしも、民主主義を体現していると豪語し続けた国で、国民投票で選ばれた。社会の構成主体である国民がこんな選択しかしない。帝国の終末を象徴していると見るほかないのではないか?

 そもそも、だ。嫌われ者クリントンと、ならず者トランプ。この2人、大統領になる器か? 
 地位と権限、名前を武器に金を集めまくった銭ゲバおばさんと、誰も尊敬しないいかがわしいビジネスで築き上げた富を背景に、暴言と呼ぶに相応しい発言で大衆の劣情をあおりたてたトランプ。この2人が大統領候補になった瞬間に、帝国アメリカの没落は誰の目にも明らかになっていたのではないか? だって、この大帝国のトップになろうというのが、こんな2人だもん。ほかに人材がいなかったんだもん。

 おいおい、こんな奴らしかいないのかよ、アメリカ!

 トランプを支持した米国民は、政治のプロに飽き飽きし、自分たちはそのプロたちから切り捨てられているという思いを抱く下層階級だといわれる。なるほど、それは腑に落ちる。クリントンは成り上がりの象徴だからだ。

 だが、トランプ? トランプが巨万の富を築き上げるには、多くの人々を傷つけたはずだとは、下層庶民は考えなかったのか? トランプとは、下層で生きる仲間の生き血を吸っていまの地位を築き上げたに違いないと疑わなかったのか? ヤツが大統領になれば、ヤツの仲間、つまりうさん臭い金持ち連中と手を繋いで、さらに金持ちになろうとするだろうとは思い至らなかったのか?

 アメリカ社会の下層で生きざるをえない人たちにはいま、破れかぶれのエネルギーが満ちているのだろう。最悪はこれまでと同じ政治が続くこと。とにかく現状を変えたい。クリントンじゃ変わるはずがない。トランプ? よくわからんが、あいつ、政治の経験はなかったよな。
 富める人と貧しい人の二極分化が定着すれば、社会は不安定になる。その象徴がトランプ大統領だ。でもトランプにそれを変える力は、恐らくない。経済の自由放任主義の行き着く先の社会絵図が、これから米国で描かれるのだろう。それは終末期の帝国の姿でもある。


 おっと、それは決して他人事ではない。1990年代に経済の負け組になり、

 「再び追いつけ追いこせの時代だ」

 と、アメリカ経済の仕組みの猿まねを再開した日本も、10年、あるいは20年遅れでアメリカ並みの二極文化社会を追いかけている。
 その日本は、トランプ現象を反省のきっかけにできるのか。他山の石として日本は軌道修正に踏み出すことができるのか。極端な金持ちもいないが、極端な貧乏人もいない調和のとれた社会を目指して歩み始めることができるのか。

 トランプのアメリカとどう付き合うのか、アメリカの後ろ盾が薄らぐ中、中国という問題児が跋扈するアジアでどう生きるのか。日本の防衛をどう構築するのか。様々な課題がこれから日本に降りかかるだろう。
 だが、一番大事なのは、アメリカの轍を踏まない日本社会を築くことではないか?

 メディアによると、大統領選挙の結果は大いなる番狂わせだという。だが、それはメディアの見通しが外れただけのことである。米国社会の変貌をきちんと計量できなかった彼らの落ち度である。
 それを番狂わせとは、片腹痛い。

 それに、だ。この結果を受けて、日本をどうしていくのか。今日の報道にはそんな視点は皆無であった。それでいいのか、マスメディア?

 トランプ勝利の一因は、米国のメディアが反トランプの姿勢を貫いたためだという。つまり、米国のマスメディアは下層大衆の敵であったということだ。

 日本のマスメディアは、大衆の敵か味方か?
 メディアに巣くっておられる方々は、トランプ現象について意味のない雑事を垂れ流すのをやめ、自分たちの足元に思いをいたす好機とされてはいかがだろう?


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